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当日
「いらっしゃいませ!」
「ご予約ですか?」
雰囲気のある入口をくぐると、
甚平を着た店員さんが出迎えてくれた。
「ちょっと早く来てしまったんですけど…」
浩一は申し訳無さそうに名前を伝える。
古民家風の落ち着いた店内。
通されたのは、こじんまりとした個室だった。
隣の個室とも少し離れていて、静かだ。
同僚が、雰囲気もいいしすき焼きが絶品だったと
勧めてくれた店だ。
ここなら沙羅も気に入りそうだな。
しかし、約束の時間まであと30分ある…
年甲斐もなくソワソワしてしまって
用意した沙羅への誕生日プレゼントを
意味もなくチェックする。
さて、半年ぶりの娘は元気だろうか。
前回会ったときは少し痩せたように感じたが…
・
・
・
時刻19時10分。
娘はまだやってこない。
部活が長引いているのだろうか。
19時20分。
まだやってこない。
途中で道に迷っているのだろうか。
スマホを見るが特に通知は来ていなかった。
「失礼致します」
「大変申し訳無いのですが
お料理、お持ちし始めてよろしいでしょうか…」
若い女の店員さんが申し訳なさそうに聞いてきた。
そりゃそうだ、お店にも迷惑がかかるから
料理を持ってきてもらおう。
しかし、このまま沙羅が現れなかったら
一人で食べることになるのか。
この個室で。
それはちょっと寂しいな、と思いながら
「お願いします」
店員さんに伝えた。
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