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「人という生き物は全くわからん。」
私たちのように毛が多く生え、彼らより小さい私たちを人は「ネコ」と呼んでいる。人間は私たちを見つけると「かわいい」や「飼いたくなる」というのだ。始めのうちは人の感覚を疑ったものだ。私達は人が出す残り物を食べて生きているのに。ダニがよく飛んでいるのに。始めこそ疑問だったが、いつしかそんなことが当たり前に思ってしまった。
そんなことを考えているうちにある一人のやつが私の体を持ち上げそのまま移動し始めた。元々陰に入った私は、人に運ばれることにより日に当たり、苛立ったので抵抗したが私より数倍大きいそいつには効果がなかった。段々とその事を学習した私は、少しずつ夢の世界に入り込んでいった。
目が覚めると、何故かあいつが私を海に入れていた。いきなりのことでびびっている私はさらにその上から降ってくる雨にあたらぬように逃げようとした。が、あいつが掴んでいるせいで結果的に嫌な水でベチョベチョになった。これを人の言葉で「シャワー」というらしい。そのあと、あいつは体にモワモワした「タオル」を当ててきた。不思議なことに水があっという間に吸い取られて思わず目を丸くした。
そのあと鉄の何かに入れられて、茶やら赤やらカラフルな何かが皿に入れられて、手元に置かれた。何かと思い匂いを嗅ぐと美味しそうだった。口の中に入れると、なんと美味しいではないか。あの「残り物」がとてもも変な味に感じてしまうほど美味しかった。これは「きゃっとふーど」というらしい。
私はいつも寝る、目覚める、シャワー、食事、自由時間、眠る、ということを繰り返していた。あいつと過ごす日々は決して辛い事などなく、とても楽しい時間が続いていた。あいつもその時は笑っていたし、何よりも楽しかった。
そんなあいつとの暮らしが終わったのは、最近のことだった。私の日を重ねているに連れて歳をとり、身体もあっちこっち痛くなってしまい、もう歳だと感じていた。そんな体の変化よりも急激に変化したのが、あいつの対応だった。昔は笑ってくれた丸くなることも、よく褒めてくれた座ることも、頭を撫でてくれた二足歩行も、今ではどれだけやっても笑ったり、褒めたり、撫でてくれない。そのかわりにまるで「死んだ魚の目」のような目で私を見ていた。
私は心のどこかで、「あいつは私との生活に飽きたのだろうか」と何回も思ってしまった。その度に、「あいつはそんなことしない」「そう思ってるはずがない」と信頼していた。しかし、その信頼は打ち消された。あいつは私を他の人間に渡して、その他人は私の仲間達がたくさんところの鉄の何かに入れた。ぐるっと周りを見渡せば、仲間達は「死んだ魚の目」をしてた。あいつと同じような目だった。仲間の目には、太陽の光に当たったような鮮やかさはなく、ただ暗い。
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