13話:天才※執筆期間に入るのでしばらく休載します

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13話:天才※執筆期間に入るのでしばらく休載します

 みるは続ける。澱みない確信が声色に乗っていた。 「あの爆発はスカベンジャーのものではなかったと思うんです。つまりあれは日向くんがやったこと。日向くんは私たちに、お前たちは来るなと言っているんです」 「わからないな。それでは逆ではないか?」 「いいえ。何故なら日向くんは、お前たちは来るな、危険だと言いつつも、同時に自分はこの先を握っていると言ってきているんです。戦って勝ち取れと言ってるんです。だからわざわざ私たちに警鐘を鳴らしながら、わかるように仕向けているんです」  みるは自分が聡に利用されている前提にも関わらず迷いがなかった。  聡の危険さをみるは理解しているが、それは彼女の決意を濁らせるほどのことではない。 「フン、ただ回りくどくしただけだろうが」 「。いまもなお、すべては日向くんの掌の上。だから私たちは例え日向くんの駒でも、日向くんの期待に応えなければならないんです」  みるは、聡が希來の名で自信を釣るだけでは、道理に合わないことを理解していた。  必ず聡にはなにか目的がある。それがなにか一行は解き明かしたいが、いまはそれを話している場合ではない。 「また話す。来るぞ!」  魔力(マナ)を追い掛けて分岐にて本線から外れ廃線へと入った途端、眼前にスカベンジャーが飛び込んで来た。  十五体ほど。いずれも魔力(マナ)の気配がなく、聡の気配だけが以前として強く感じられる。  ダフネは青色の閃光で廃線を照らした。ここには当事者と死霊以外誰も見当たらない。  そうともなれば手加減する必要はない、ダフネの槍はすぐさま前方のスカベンジャー三体を薙ぎ倒す。そしてみるもまたダフネのように攻撃を仕掛けようした瞬間、事態は起きた。 「目的を見失っても真っ直ぐ進むしか脳がない。人魚と言うより鮪だな」 「な……ッ!」 「――」  爆発。  ダフネとみるはその衝撃を受け、廃線の上に落ちた。 「く、う……っ」  あまりに強い衝撃。廃線はすぐさま瓦礫の山と化した。虎太郎はみるの車椅子ごと地面に落ち、彼だけはなんとか気を失わずに済んだが、痛みが強すぎて身体に力が入らない。  虎太郎が辺りを見回すと、ダフネとみるが近くで倒れていたことや、自分たち目掛けて飛んで来ていたスカベンジャーが骨片と化していたことがわかった。  息も絶え絶え、穏やかでいられる状況ではないが、この戦いの結末だけは鮮明に虎太郎の前に突き付けられている。  負けた。失敗した。  すべては隻眼の目論見の前に無力。 「馬鹿か。攻撃する瞬間が隙だらけだ」 「それに俺の魔力(マナ)の所在を見誤っていたな。危うく通り過ぎるところだ」  圧倒的な存在感を放つ眼帯の男は、黒いローブのような上着に身を纏い、スーツ姿の代田へ巨大な銃口を向けながら話す。代田もまた、手足を拘束され、目隠しと猿ぐつわをされてはいるが、まだ生きていた。  倒れたままの虎太郎は、見慣れた男の名を叫んだ。 8908795b-2947-4de3-9c06-4f7171fb2364 「……日向っ!」  暗い。しかし金色の轍と水色の閃光が落ち着いたいまもすこしばかり明るさがある。虎太郎には随分先の柱に緑色の光源が見えていた。それは聡が書いた魔法陣が放つ光だ。 「そこの人魚が傍目ジグコードとザグコードを見分けられなかったのは知っている。お前たちが目指していたのはあの魔法陣だ。会議不足だったな」  一体いつの間にその魔法陣と聡は入れ替わったのだろうか。未だ魔力を感知できない虎太郎には知る由もない。 「お前……っ、みるを……撃ったのか……?」  聡は相変わらず無表情だった。  冷酷無比。悪魔の隻眼は目的の為には妥協を許さない。 「……死んだかもな。だったらどうする。糸田(誰か)が踏むところに地雷(魔法陣)を仕掛けたのも俺だが」 「てめえ……ッ!」 「筋書きを忘れるな。お前たちの狙いは俺からこの男(代田)を助けることだ。そしてお前たちは失敗した。つまり俺はこの男を殺す。お前たちは俺からこの男を救えなかったんだ」  対照的な虎太郎の激怒だが聡には全く響かない。聡にとって虎太郎は、頭数に入れるまでもない雑魚だった。  虎太郎は悔しかった。力の差は歴然。知略でもまるで敵わない。能力を使うこともできない。  仲間を傷つけ、当事者ではない人魚すらをも出し抜いた男を前にし、なにもできない自信の無力さを、彼は聡へぶつけていた。 「みるは……お前のこと信じてたんだぞ……」 「そうだな。だからお前たち三人が辿り着くとは思っていた。お前が能力に目覚めないまま来るともな」 「お前はそうやってなんでもコードからお見通しかもしれねぇけど……振り回されてる俺たちの身にもなってみろよ……」 「俺たち、か。俺の身にもなれの間違いだろう。お前は仲間の葛藤も知らず、能力も使えない分際で、俺になにを解こうとしている?」  虎太郎は話せばわかるとは思っていない。ましてや勝てるとも思っていない。  聡を前にして、いま虎太郎を動かしているのは彼の本能だ。わがままとも呼べる。 「決まってんだろ……人殺しなんてすんなって言ってんだよ……」  しかし、だからこそ、遠慮もつよがりもない。 「お前は中学時代、黒髪だったそうだな。高校デビューを所望か」 「うるせぇよ……俺は希来の居場所を聞きに来たんだよ。余計なこと聞いてんじゃねぇよ……」  腹を立てる虎太郎だが、否定しなかった。それだけ希来に固執していたこともそうだが、彼の葛藤はそれだけではない。 「虎太郎(お前)のことは知っている。中学時代周りの連中から万引きするように言われ、断った。怖かったからじゃない。嫌だったから断った。な。だが、自己満足だ。万引きに失敗したところで揉み消せるだけのものをお前は持っていただろう。それで虐めの標的になることがわかっていながら……」 「……うるせぇよ……!」  たしかに中学時代、虎太郎は万引きを拒否したことで虐められるようになった。  だからこそ、高校に入ればすべてが変わると信じていた。野球部を辞めてからは、舐められないように髪を染め、ピアスの穴を開けた。幸運にもコンプレックスだった身長も大きく伸びた。  しかし高校に入った虎太郎を待ち受けていたのは、龍見工業社長の息子に対する嫉妬や、その容姿から来る近寄りがたいと言う印象……高校へ進学するとあとの仲間は別のクラスとなり、彼には普段話せる相手がみるしかいなかった。友達が欲しくて野球部にも入ったがあまりにやる気も才能もなく軋轢を招くだけだと辞めてしまった。  だからこそ彼の数少ない仲間である、みるが、コウが、仲間が傷つくことが許せなかった。そしてこれだけの傍若無人を繰り返しながらも、その求心力を持ち続ける聡に嫉妬していた。  そしてなにより、自分を認めてくれた、明日葉希来を渇望していた。 「だまれよッ!」  スポーツ(野球)でも勝てない。勉強でも勝てない。人望でも勝てない。どれだけ自分を貫いても認められる聡と、どれだけ自分を貫いても認められない虎太郎。勝ちたいとは思っていない。ただせめて負けたくはない。そんな葛藤に苛まれた虎太郎は、気付けば聡に。  虎太郎の武器を操る能力は、自らが意図したところに武器を生み出すことができた。 「希来を……ッ! 希来を返してくれよ……! 希来がいないと俺……ッ!」  情けなく震えた声を上げる虎太郎。  聡が希来を渇望するのは、単に自分の彼女だからという理由だけではない。  希来は虎太郎を認めてくれた……その事実が、虎太郎が希来を必要とする最大の理由であった。 「撃ってみろ」  それを見た聡は、怯むどころか虎太郎ににじり寄った。聡はこの能力を秘めるスカベンジャーを掛け合わせた張本人であるが、特別その能力の影響を受けない訳ではない。  聡は武器をその手のなかに納め、なおも歩み寄る。震える虎太郎の銃口に眼帯がぶつかってもなお、聡は更にこれでもかと強く押し当てて来た。 「」  虎太郎は初めてこの男への恐怖を自覚した。  自分を遥かに上回る地獄の葛藤が、眼帯の奥から漏れ出していた。  死など恐れるに足らない。気に入らないならいつだって殺せば良い。このように圧倒する聡もまた、つよがりもなにもない。  誰かを頼らなければ生きていけない虎太郎と、誰の手を借りずとも前に進むことができる聡では、その胸に秘めた覚悟の差が違いすぎた。  。こんなもの、まともにどうこうできるものではない。そう感じ力なく震えた虎太郎の手がついにその銃を地面に零した。  すると聡はその眼帯を外し、魔眼と呼ぶべく紫の眼差しを、睫毛と睫毛がぶつかるほどの距離まで近づけて言った。 「人の所為にするな」 「お前の葛藤だろうが、お前がしがみつけ」 「――」  冷徹な魔眼は虎太郎から振り返ると、再び一撃を放った。  爆発は容赦なく虎太郎の意識を奪う。  卒倒していた虎太郎が目を覚ますと、最早その面影すら危ういその凄惨な廃線のうえに、代田の死体が投げ捨てられていた。  大胆不敵な殺人を起こし、聡は再び姿を消した。 a11e7990-6123-4ccd-9f2b-a1b814a534dc
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