きみのためなら

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俺が今日電車に乗って来ていたのは病院であった。俺自身、何か持病を持っているわけでもなく、何かしらの病気の症状があるわけでもない。  俺が今日病院訪れた理由はさきほどコンビニの店員が言っていたようにある人物に会うためだ。 「今日も元気そうだな」  ある病室の一室。一番奥の窓際に置かれているベッドで横になっている女性に向かってそう呟く。  しかし、その女性からは返事が返ってくることはない。なぜなら、彼女は二年近くこうして眠っているのだから。 「もうすぐクリスマスだからな。今年もクリスマスツリー買ってきたぞ」  俺はベッドのそばに置いてある椅子に座り、手に下がっていた袋の中から先ほど買ったクリスマスツリーを取り出す。  そして、おもむろにクリスマスツリーが包装されているビニールの中からツリー本体と説明書を取り出す。 「今年はホワイトクリスマスになるかもな」  病室で一人、誰に向かってでもなく話しながら俺は説明書を見ながら、クリスマスツリーを組み上げていく。 「最近、そっちはどんな感じなんだ。まだ、そっちの方がいいのか」  眠っている彼女にそんなたわいな冗談を話しかけながら、組み立てていく。  たかがコンビニに売っている程度のものなので、要領さえわかればものの数分で組み上がってしまう。最後にツリーのてっぺんに黄色い星を飾り付けてクリスマスツリーの完成であった。 「この花もそろそろ変えないとな」  出来上がったクリスマスツリーを飾ろうとした時に、俺がつい最近持って来たマーガレットの白い花がしおれていることに気がつく。 「お前にどんな花を持って来たらいいとか、入院している人にどんな花を持って来たらいいかわからなくて、なんとなく選んで持って来たんだけどな。もう、これもダメだな」  白いマーガレットの花にそっと触れながら、眠っている彼女の顔を見つめる。 「愛はお金では買えないってのは本当みたいだな」  童話で有名な白雪姫は白馬の王子さまのキスでその眠りから覚めた。  世の中に存在する多くの恋愛漫画では愛する人との時間が二人を結ばせた。 「でも、俺にはこうするしかないんだよ……」  目の前で眠っている彼女は俺と同じ大学に通っているはずだった。  しかし、大学の入学式当日。彼女は俺の目の前で意識を失った。それから、一度も目を覚ますことはなかった。 「お前にまだ言っていないから。キスなんてできない。俺たちは恋愛漫画のようにまだ始まってすらないんだ。だから……」  だから、俺はこうして何かを彼女に差し出すことでしか、今の彼女に想いを伝えるすべはないのだ。  お前がいつか目を覚ました時に、周りのものを見てそれが全て俺が貢いできたものだと言い張るため。  彼女のご両親に少しでもいいから彼女の入院費用を払わせてほしいと懇願したのも、お前のために俺は入院費用まで払ったんだぞ?って起きたお前に俺への感謝をせがませるため。  毎週のように電車に乗ってここに来ているのも、それだけ苦労してたんだぞってお前に自慢するため。  俺はこうやって眠っているお前にお金を使った卑しいことしかできない。  お前が起きた時に、周りのものを見て、俺が持って来たものだと気づいて気持ち悪がっても、自分の入院費用をわざわざ払ってくるほどの卑しいやつだと軽蔑しても、毎週来るようなストーカーだと思われてもいい。  俺は君があの日のように目を覚ましてくれるのなら。  まだ、君がこうして息をしてくれているのなら俺は無一文になってもいい。 “きみのためなら”                                  fin
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