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目的地の最寄駅に着き、電車から降りて改札を通って外へと出る。そして、目的地まで徒歩で向かう。
駅からほとんど目と鼻の先なので歩いてもわずか数分といったところだ。
しかしながら、俺の場合は少し寄り道があるので他の人よりも目的地に着く時間が長かったりする。
目的地に向かうルートから少し外れ、コンビニへと歩みを進める。
「いらっしゃいませ〜」
聞き慣れた入店音に元気のいい声が聞こえる中、俺は店内へと入って行く。
とりあえず、お昼ご飯となるおにぎりを二つほど手に持って、今度は店の奥にある飲み物を物色する。その中から缶コーヒーを一つ手に持って、レジへと向かう。
その時、不意にあるものが目につく。
「クリスマスツリーか」
それは、紙で簡単に作れるクリスマスツリーだった。
俺は両手に持っていた商品を片方の手に集めると、懐の財布を開ける。そして、しっかりと残金があることを確認して、そのクリスマスツリーを手にとってレジへと向かう。
「今日は、少し遅いですね」
「あぁ、昨日夜勤でそのまま寝坊だよ」
「大変ですね、夜勤の人は〜」
若々しい見た目に、実に高校生らしい愛嬌のある女の子の店員がレジをしながら、俺に話しかけてくる。
全く異なるコンビニ、全く異なる年の俺たちがこうして当たり前のように会話しているのは、俺がよくこのコンビニに来ることが原因であった。
「今日もお疲れ様です」
「別にたいしたことじゃない」
「そんなこと言いながら、お金ないんでしょ? 大学生さん」
「お前も来年からはこうなる」
「それ、遠回しにお前なら合格できるぞって応援してくれてます?」
「そうだといいな」
「1万円になります」
「いい加減な、計算はやめろ」
俺はレジに表示されている金額分だけ支払いをする。
「ただいま、肉まんのセール中ですが、いかがですか?」
「お金がない」
「な〜ら。なんでこんなの買っているんですかね」
「わかった。買うからまともにレジをしてくれ」
「ありがとうございます♪」
店員の女の子は慣れた手つきでそばに置いてある肉まんが入っているスチームマシンから肉まんを一つ取り出すと、紙の中にスッと入れて、開いた口をセロテープで閉じる。
「これ、分けて入れましょうか?」
「あぁ、たのむ」
彼女はいつも通り、俺のものとそうじゃないものを違う袋に入れてくれる。
「好きなんですね。彼女のこと」
「だから、彼女じゃないって何度言ったら……」
「2000円お預かりします〜」
店員の女の子は俺の言葉など聞かないそぶりで置いてあった2枚の1000円札を手に取る。
「お金がない大学生が、2年も1人の女性のために通っているなんて、その女性が彼女以外の何だというんですか」
「話すのはいいが、しっかりおつりくれよ」
彼女は話しながらにもしっかりとレシートと一緒に1円たりとも誤差のないお釣りを俺に渡してくれる。
そして、袋をこちらへと渡して来る。
「彼女とお幸せに」
「ありがとうございましただろ、アルバイト」
呆れながら俺は彼女から袋を受け取ると、コンビニを後にした。
そして、しんしんと雪が降る中、湯気のたった肉まんを袋から取り出して口へと運ぶ。
(彼女、なんかじゃない……)
暖かい肉まんを手で包みながら、そっと肉まんの味を噛み締めた。
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