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壱花は可愛い狐が藤の前にいる札を見ながら、小首を傾げていた。
そのとき、札が震えて、慌てて手を離す。
「あっ、すみませんっ」
と壱花は思わず謝り、それを拾った。
落としてしまったその札の中に、噂の高尾がいるような気がしたからだ。
札を手のひらにのせると、ほんのり温かい。
側に来た倫太郎がその狐の札を覗き込んで言う。
「その高尾とかいう化け狐、もしかして、この怪しい百鬼夜行花札とやらに吸い込まれたのか?」
「それで、みんなの記憶から消えかけていたんですかね?」
と呟く冨樫に、壱花は、
「完全に忘れていたら危ないところでしたね。
冨樫さん、すごいですね」
と言ったのだが、
「いや……」
と言ったあとで、冨樫は黙る。
何故、自分は忘れなかったのかについて、考えているようだった。
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