私たち、なにか忘れてやしませんか……?

12/26
前へ
/86ページ
次へ
 壱花は可愛い狐が藤の前にいる札を見ながら、小首を傾げていた。  そのとき、札が震えて、慌てて手を離す。 「あっ、すみませんっ」 と壱花は思わず謝り、それを拾った。  落としてしまったその札の中に、噂の高尾がいるような気がしたからだ。  札を手のひらにのせると、ほんのり温かい。  側に来た倫太郎がその狐の札を覗き込んで言う。 「その高尾とかいう化け狐、もしかして、この怪しい百鬼夜行花札とやらに吸い込まれたのか?」 「それで、みんなの記憶から消えかけていたんですかね?」 と呟く冨樫に、壱花は、 「完全に忘れていたら危ないところでしたね。  冨樫さん、すごいですね」 と言ったのだが、 「いや……」 と言ったあとで、冨樫は黙る。  何故、自分は忘れなかったのかについて、考えているようだった。
/86ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1024人が本棚に入れています
本棚に追加