第1話

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第1話

穏やかな陽射しと柔らかな風が吹く青空の下、初めて繋いだ手は温かかった。 「ねえ!薫兄(かおるにぃ)、待ってよ!」 「遅ぇ~ぞ、勇登(はやと)」 直ぐに追いついた人の隣に並ぶと、薫兄が俺を見て小さくぷぅと頬を膨らませた。 「ん?どうしたの?」 「……お前…また背ぇ伸びただろ?」 「ああ、うん。その所為か朝起きたら時々関節とか痛いんだよね~」 「………」 「薫兄?」 プイッと顔を背けた人を覗き込むと小さく唇が尖っている。 「…………たのに…」 「え?」 「……俺より小さい方が……可愛かったのに…」 拗ねたような口振りに思わず吹き出す。 そんな俺を見てもう一度、今度は大きく頬が膨らんだ。 「な、何だよっ!?」 「あのさ~、俺もう高校生だよ?可愛いなんて年じゃないよ~」 「だからって!…そ、それに俺の方が二つも年上なのに見下ろされるなんて……納得いかない!」 「そんな事言ったって俺の所為じゃないよ?」 「それでも!納得いかないんだよ!」 そう言うと、薫兄はズンズンと早足で歩き出した。 「あっ、待ってよ~」 声を掛けると更に歩く速度を速める人の背中を慌てて追いかける。 「薫兄~」 「知らねえよ、勇登なんか」 「今日からやっとまた一緒に行けるんだからさ」 その言葉に薫兄の足がピタリと止まる。 再び追いついた人の手をそっと握る。 「俺が迷子にならないように、こうやって学校まで手を繋いでくれる約束でしょ?」 「………そんなの………小学生の時の話だろ…」 「俺が中学に上がってもしてくれたじゃん」 「……一年間だけだったろ…」 「次の年には薫兄が高校に上がったからね~。漸くまた同じ学校に通えるようになったね」 「………」 「薫兄、また一年間だけでもイイから…手を繋ぎたい」 「………」 「ダメかな?」 「……勇登がイイなら……別にイイけど」 少し俯いた横顔が薄赤く染まるのに、嬉しくて笑みが零れる。 指先に少しだけ力を込めてきゅっと握ると、同じくらいの力で握り返してくれる指先は柔らかくて温かかった。 「薫兄、大好きだよ」 「ああ、俺も勇登が好きだよ」 笑うと笑い返してくれる笑顔は、春のどんな花よりも綺麗だ。 「行こうか」 「うん」 手を繋いだまま、青空の下を歩いた。
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