第6話

1/1

20人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ

第6話

「…んっ…はっ、やめ…はや、と…」 強引にキスされて、息ができなくて苦しいのに…勇登の体は離れてくれない。 「…ん……んんっ!?」 抉じ開けるように唇の間から侵入してきた湿った物体に驚いて、目一杯の力で勇登の胸を突き飛ばした。 「なっ…にすんだよ!?何考えてんだよっ、お前はっ!!」 手の甲で濡れた口許を拭う。 込み上げて来る怒りで涙が滲む目で勇登を睨むと、その表情は怒っているように見えるのに……勇登の目は悲しそうに揺れた。 「………なんで?」 「え?」 「さっきの人とはキスしてたじゃん……なのに、どうして俺とはダメなの?」 「……は?……お前、何…言って…」 「俺の方が薫兄の事を知ってる!俺の方が薫兄の事を分かってる!俺の方がっ!!…俺の方が薫兄の事……好きなのに…」 「勇登………お前…」 勇登の目から涙が一筋零れた。 俯きそれを隠すように手で拭う姿に、幼い頃の勇登の姿が重なって… 俺は唐突に理解した。 何故、彼女とキスから先に進めなかったのか 何故、彼女に触れる度に胸の奥が痛かったのか その疑問の答えは全て同じだったんだ。 ”勇登じゃないから” 勇登じゃないからドキドキしない 勇登じゃないからその先に進めない 俺は……勇登の事が好きだったんだ… 一歩勇登に歩み寄り、その顔を見上げる。 「……勇登…」 ゆっくりと上がった顔は、初めて会ったあの頃みたいに何かに怯え、その目は不安そうに揺れて見えた。 「勇登、……ごめん」 「……薫兄」 「ごめん、ごめんな……勇登…」 手を伸ばし勇登の頬を濡らす涙を指先で拭う。 ゆっくりと肩に寄り掛かる頭を抱き寄せると、そっと、でもぎゅっと体を抱き締めて来る腕に、勇登の少し大きな背中を抱き締めた。 勇登の肩の向こうに薄紅色の花が一輪、空に向かって咲いているのが見えた。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

20人が本棚に入れています
本棚に追加