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武彦は道化師の格好をして涼子を待った。
静かな波音だけが響く誰もいない夜の埠頭。
ぬるい風が道化師の頬をさすった時、
「どうしたの?
そんな格好して」
今日は特別な事が起こるんだ、そう覚悟を決めて涼子は笑顔を見せ道化師へと近づく。
道化師は返答しない。
その代わりに手品を使い、何もない手から花を出す。
「アンズの花……
確か花言葉は『臆病な愛』」
花に詳しい涼子は、道化師の思いを言葉に出しながら推測する。
目の前まできた涼子に、道化師は表情も変えずさらに花を登場させる。
「黄色いユリ?
『天にも昇る心地』」
道化師が何を言いたいのか、涼子は理解し始め目元が潤み出す。
道化師はさらに花を出し、
「クローバー、『私を思って』」
涼子が確信を得た時には大きな花束が出来上がっていた。
その大きな花束の中にキラリと光る物。
「それって……」
涼子の目から涙が溢れ出すと、道化師はその光る物を花束から取り出す。
「ずっと一緒に……」
道化師はその日初めて喋り、涼子に差し出した。
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