1.間違い電話

2/5
前へ
/99ページ
次へ
 私の周りでは特別流行っているグループでは無いが、学生の頃からいつも癒してくれる究極のナンバー、洋楽バンドの子守歌で和訳すると『キミの名前を教えて』だ。  私は再びベッドに寝転がり、ため息を浮かべた。  誕生日である五月一日は、人生最悪の日だった。  の映像を、もう何度として思い出し、その度に涙が滲んだ。  私の正面に座った恋人の和希は、意を決したように重い口を開いた。 「俺さ、来月結婚するんだ」 「……え?」 「だからさ。もうこうやって朱音とは会えなくなる」 「は?」  鳩が豆鉄砲を食ったような、正にそんな顔で、私は大好きなパスタをフォークに巻き付けたまま固まっていた。  一瞬何を言われたのか分からなかった。  本来ならば結婚という流れになるかもしれない恋人の私に、五つ年上の彼氏は「結婚しよう」とか「結婚したい」という言葉では無く、「結婚する」と言う。  要するに、これまで彼氏だと思っていた和希には、既に三年以上付き合っている彼女がいるそうで、付き合ってまだ半年の私は都合良く遊べる相手で、二股をかけていたという事らしい。  結婚まであと一カ月ちょっとだし、エリートの彼はそろそろ身辺整理を考えるべきかと勝手に判断して、私に別れを告げる決心をしたそうだ。
/99ページ

最初のコメントを投稿しよう!

619人が本棚に入れています
本棚に追加