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私の周りでは特別流行っているグループでは無いが、学生の頃からいつも癒してくれる究極のナンバー、洋楽バンドの子守歌で和訳すると『キミの名前を教えて』だ。
私は再びベッドに寝転がり、ため息を浮かべた。
誕生日である五月一日は、人生最悪の日だった。
その時の映像を、もう何度として思い出し、その度に涙が滲んだ。
私の正面に座った恋人の和希は、意を決したように重い口を開いた。
「俺さ、来月結婚するんだ」
「……え?」
「だからさ。もうこうやって朱音とは会えなくなる」
「は?」
鳩が豆鉄砲を食ったような、正にそんな顔で、私は大好きなパスタをフォークに巻き付けたまま固まっていた。
一瞬何を言われたのか分からなかった。
本来ならば結婚という流れになるかもしれない恋人の私に、五つ年上の彼氏は「結婚しよう」とか「結婚したい」という言葉では無く、「結婚する」と言う。
要するに、これまで彼氏だと思っていた和希には、既に三年以上付き合っている彼女がいるそうで、付き合ってまだ半年の私は都合良く遊べる相手で、二股をかけていたという事らしい。
結婚まであと一カ月ちょっとだし、エリートの彼はそろそろ身辺整理を考えるべきかと勝手に判断して、私に別れを告げる決心をしたそうだ。
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