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~プロローグ~
-雨が降っていた。
傘も差さずに独り、マンションの前、電柱の陰に隠れ、びしょ濡れになりながら俺は人を待っている。
待ち人はなかなか来ない。
雨が体温を奪っていく。
寒さに身体が震える。
永遠とも思える時間。
だが、俺はその場から動かなかった。
長い時間が過ぎていき、ようやく水を蹴る音が聞こえた。
人影が見える。
(奴だ)
傘を差したソイツがマンションの方に歩いてくる。
俺はジリジリしながら、ソイツがマンションに近付くのを待った。
そして、マンションの前で立ち止まり、傘を畳んだソイツがエントランスホールへ入ろうとした瞬間。
(…今だ!!)
俺は電柱の陰から飛び出した。
両手にナイフを握り締めて。
だが、必死の思いで突き出したナイフは簡単に避けられ、僕の両手首はあっけなくソイツに掴まれる。
ギリギリと握る手首に力を込められ、ナイフが俺の手から滑り落ちる。
ナイフが床に落ちる音がする。
ナイフが落ちてもソイツは俺の手首を離さない。
それどころか、左手だけで俺の両手首を掴むと、右手を振り上げ俺の左頬をめがけて振り下ろす。
その容赦ない衝撃に頭がブレる。
目の前に火花が飛ぶ。
だが、ソイツは何度も何度も俺の頬を叩く。
左、右と規則正しく、力を込めて。
その度に俺の身体が左右に揺れる。
両手首を掴まれていなければ、床に倒れていたかもしれない。。
そんな無様な姿をコイツには見せられない。
俺は両頬を叩かれながら、ふらつく足に力を込める。
頭が激しく左右に振られる。
口に鉄の味が広がる。
鼻血が飛び散る。
両頬の感覚がなくなる。
両足がふらふらする。
叩かれすぎて意識が朦朧とし始めた頃、ソイツの俺の頬を叩く手が止まった。
「…殺せ」
朦朧とする意識の中、かすれた声で俺は言った。
俺の言葉に、ソイツは楽しそうにクスクス笑う。
「お望みなら、殺してやるよ…ベッドの中でね」
その言葉に俺の身体が強張った。
「俺から逃げれると思っていたのか?甘いな。お前は俺からは逃げられない」
ソイツの顔が近付いてくるが、避けることができない。
「お前は俺のモノだ」
ソイツの唇が、俺の唇を塞ぐ。
-ニゲラレナイ。
絶望的な気分の中、俺は意識を手放した。
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