5 月夜の帰り道

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5 月夜の帰り道

終電が行ってしまった後のタクシー乗り場は既に行列ができていた。 みんな夜が遅いんだなあ…と、実家の甲府の状況と比べて愕然とする。まだ駅周辺も、まだまだ営業中らしくネオンが輝いて、全然暗くない。 街全体がまだまだ活動時間だからタクシーも忙しいのだろう。空車待ちの行列は伸びていくのに、肝心の車は回ってこない。 「しょうがねえ、歩くか」 沢渡さんは諦めたように言って、並んでた列を離れた。後ろの人がラッキーとすぐさま詰めてくる。 「えぇっ、今からですか?」 既に12時を過ぎてる。これから歩いたら、桜木町までどのくらいかかるんだろ。焦ってる私を沢渡さんは鼻で笑う。 「30分くらいで着くよ」 「え、そんなものですか?」 「そんなものだ。大した距離じゃない」 改めて地下鉄の一駅区間の短さに驚く。地下鉄って窓の外が見えないから、距離感がつかめない。30分くらいで着くのなら、2キロ前後ってこと? 沢渡さんは歩き慣れた調子で、老舗のデパートの脇を抜けて、高速の下の道をぐんぐん進む。歩くの早い。私は追いつくのに精いっぱいだ。けど、方向音痴の私が沢渡さん見失ったら、絶対絶対家に帰れない。だから必死についていった。 「早かったか?」 少し行ったところで立ち止まって、沢渡さんは振り返った。 「え、あ…少し…」 「わりぃ、ペース落とすわ」 「…助かります」 駅前から離れてしまうと、歩いてる人はほとんどいない。車はひっきりなしに、私と沢渡さんの横を通り過ぎていくけれど。 「あ、ランドマーク!」 見慣れた建物が急に視界に表れて、私は思わず声をあげた。 横浜に来て一か月。あのビルが見えると、なんだかほっとする。
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