番外編 春になったら

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(譲れない希望条件) 駿さんが帰国したら、一緒に暮らすことになった私たち。 最近はもっぱら、ネットで不動産情報を見るのが日課になっていた。 「駿さんは、どんな家がいいんですか?」 私はモニター越しに駿さんに聞いてみる。画面の向こう側の駿さんは今日はお休みらしく、スウェットの上下というゆったりスタイルだ。 「そうだなあ。理想を言えば、キリがないけど、とりあえず近くにコンビニがあって、本屋があって、立ち飲み出来る居酒屋があって、駅から歩ければいいかな」 「????」 駿さんの答えに私は目が点になる。 あれ、私、希望の家、って言ったよね…。それは家、の希望なんだろうか…。 「え、そうじゃなくて、キッチンは対面がいいとか、贅沢言わないけど、ビルトインの食洗器が欲しいとか、床は全部フローリングがいいとか、いろいろあるじゃないですか」 「あーそういう『希望』か。家の中のことは、それほどこだわりないんだよなあ。別に普通に暮らせればいいよ」 普通の暮らし、とは…。 「……」 これが男と女の違いだろうか。カーテンは何色がいいかな、とか、ダイニングテーブルはどんな素材のがいいかな、とか、IKE〇のカタログ見ては想像して楽しんでるのは、私だけ? しょうがない。駿さんでもスルー出来ない家具の話題を振らないと! 「あ、あと寝室のベッドはダブルと言わず、クイーンサイズのベッドとか、ででん!と置きたいですよね」 ベッド、大事だよね。愛を育む場所だもん。新しい命を生みだす場所でもあるし。…って、私、既に発想がやらしい? が、しかし、ここでも駿さんの回答は私のこの想像に水をぶっかけてくるものだった。 「クイーンベッド…買ってもいいけど、俺がそこで寝るの、月の半分くらいだぞ。いいのか?」 「!!」 駿さんに言われてはっと気がつく。そうだった。戻ってきたら、また夜勤生活が始まるから。 駿さんがいない夜は、クイーンサイズのベッドに寝るの、私、ひとり…。想像した絵面が既に寂し過ぎる。 「…やっぱりダブルでいいです…」 「そんながっかりするなよ、雛。一緒の夜は毎日愛してやるから」 露骨なこと言われて、私はかぁっと頬が熱くなる。 「いや、そんなに頻繁でなくても…」 「隣にお前が寝てて、俺が手出さないでいられると思うか?」 「……」 やん、もう。どうしよう。 趣味とか価値観とか噛み合ってなさそうだけど、一緒に暮らし始めて大丈夫なのかな。期待と不安がないまぜになりつつ、その日が来るのが待ちきれない私は、駿さんとの新生活のために、今日も素敵なお部屋を探して、ネットを見まくるのだった…。                          (完) ここからの――新婚生活。 どんなになるのか、海野もちょっと想像出来ないですが、頑張って妄想してみます。
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