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カーテン越しに差し込む陽射しが眩しくて、私は駿さんの腕の中で、うっすらと目を開ける。
おはようございます、沢渡雛です。
紆余曲折悲喜こもごもありましたが、社内恋愛で結ばれて、壮絶な遠距離恋愛の末に、漸く職場の元上司、沢渡駿さんと結婚しました。
駿さんが帰国する1カ月前くらいに、次の赴任先が内示になった。結局、駿さんはみなとみらいのノエルホテルに戻ることになって、私はまだ新宿のまま。
それでも、私が住む寮に夫婦では住めないから、そこから大急ぎで二人で暮らせる広さのマンションを探し、足りない家具を購入し、二人の新居の準備を、一人で、頑張った。いや正確に言えば、一人ではないけれど。
仕事の合間での家探しや、大型家具の購入で、夫である駿さんは、直接物件を確かめることが出来ないから、ほぼ私の独断。
文句なんて言わせないし。って思ってたけど、駿さんは寧ろすごく私に感謝してくれた。
駿さんが帰国した――二人の新婚生活の始まりの夜に、私はベッドの上で正座をして、駿さんと向かい合う。
「どうした? 雛」
妙に形式ばって畏まった私に、駿さんは戸惑いの色を隠さない。
「ふつつかな嫁ですが…、幾久しくいつくしんでくださいますよう」
お母さんから仕込まれた口上を、私はそのまま伝えると、駿さんは最初、またいつもみたいに「ばか」って笑って、だけど、どんどんその顔は崩れてく。変なこと言ったかな。駿さんが泣きそう。そう思った瞬間に私の身体は駿さんの両腕に抱きすくめられて、胸元にぎゅって頬を押し付けられる。
「全然ふつつかなんかじゃないよ、全部任せっぱなしにして…ごめん。ずっと一人にしてて、ごめんな、雛」
声が駿さんらしくなく震えてて、もしかして泣いてるのかと思ってしまった。
そんなこんなで新婚1カ月目の朝。
…と言っても、既に9時過ぎてる。
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