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やっと使えるのかぁ!
買ってから一度も使う機会が来なかったので少し嬉しい。
ホールを出ると、目の前が明るくなった。
少しずつ目を慣らす。
前を歩いていた姉が、少し先で振り返る。
「はいっよろしくたのむよっ。」
「あぁ!」
カバンから「なんでも吸い込むん」を取り出す。
「へぇ~そんなのなんだ。」
「うん。」
スイッチを入れる。
使い方を頭に思い浮かべる。
設定をして、これのへこみのある側面を相手の胸に向け、開始ボタンを押す…?
不安になって説明書を取り出した。
「あ、あってるあってる。」
そして何の気なしに注意書の目を向けた。
『必要以上に吸い続けると心の状態が無、つまり、何も考えられない、何も無い、状態になります。十分にお気を付けください。』
ハッ
俺は固まった。
「……………………。」
「え、まさか今更噓…?」
姉が少し眉をひそめて言う。
「いや、…違う。…けど。」
「けど…?」
もし、失敗したら? 全てを吸い取ってしまったら?
もし、もし、もし…。
姉が、無 になったら…?
不安が湧き上がる。
「ねぇ、ちょっと大丈夫?」
気付けば姉が俺の顔を覗き込んでいた。
「……………も、もし………。」
言う声が震える。
「……………………。もし?」
「しっぱい…したら…。」
喉の奥から声を絞り出す。
「…失敗…?」
姉は少し不穏な空気を感じ取ったようだ。
「姉ちゃんが、からっぽになっちゃったら…。」
「ハァ!? ちょっと貸しなさいよ!」
姉が、俺の手から機械と説明書を奪い取る。
少しの間凝視し、機械を俺に向けた。
「え。」
「今のあんたの気持ち吸い取ったるわい!」
姉が自信満々の顔で俺を見る。
「ちょちょちょちょちょ!」
本当にちゃんと読んだのか!?
「いい?5分忘れてね。」
「5分!?あ!」
そうじゃないか。俺で実験すればよかったのか!
そうか!
「あ、…ちゃんと設定した?」
違う不安が芽生えた。
「まだ。このスイッチ入れるでしょ? こここうして…で、こうして…?」
頷きながら注意する点も教えていく。
「おっけい。……よし来い!」
姉が俺にそれを向ける。
俺はそっと目を閉じた。
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