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サイダーなんてさ
自動販売機による自動販売がそこら中で行われている街で、私はコンビニに行った。サイダーが欲しかったのだった。サイダーだって、だれかに欲しがってもらいたかったはずで、そういう目的で売られていて、そこに私が偶然来ただけで、そこに罪も罰もないでしょ?美味しい話は炭酸の味なのだ。今日に限って、今に限っては。明日はチーズケーキかも知れないけど。
そう思った辺りで、コンビニ、つまり、コンビニエスストアにたどり着いた。現在、昼でも夜でもない時間。名前をつけるなら、夕方、とか、どうだろうか。私が今名付けた。誰にも秘密だ。こんな中二病みたいな名前、世界に知れわたったら、こんなに穏やかな時間が、少しだけ夜に近づいちゃうじゃないか。
店内に入る。入店音を回避することは出来ない。幽霊以外は。幽霊もたまに回避出来てないらしいけど。
歩き回る。どこに飲料水系統があるかは、なんとなくわかっているけれど、とりあえず他の物も見る。コンビニというのは、そもそも「色んなものを見たくなるように物が配置されている」という話を聞いたことがある。多分本当なので、私は完全にコンビニの思うつぼであり、手のひらの上である。それに抵抗しようとも思っていない。
とはいえ、飲料水の場所へたどり着いた。私は、サイダーを探す。
…見つからない。サイダーがない。それ以外は、宇宙の真理ごと、そこに置いてある気がしたけど、サイダーはなかった。別にサイダーを置かなければ行けないという法律はないけれど、法律が全てではないので、サイダーが置いてないのはおかしなことだ。
とはいえ、念じたらサイダーが入荷するシステムが2020年にはないので、仕方なく店を後にした。店の名前はコンビニだった。知ってるし、知ってたし、わざわざ知らなくても良かったけど。
「…自動販売機か…」
自動販売機で買う、という選択肢は、確かにそこにあった。自動販売機が確かにそこにあるくらいにはあった。でも、少しだけ高いのだ。お金が無い訳ではない。むしろ今、不必要に千円札が何枚かある。サイダーくらい、どこでだって買える。よっぽどの高級なやつじゃない限り。
値段が少しだけ高い。私と背比べしたら、私の等身大の気持ちより、約20円cmくらい高い。それだけなのだが、なんとなく、スーパーやコンビニで買いたかった。
信号機が、また赤に変わっていた。3分くらい前も赤だったじゃないか。全く、せっかちな色だ。
そんなことを思っていると、視界の端に、知っている人がいた。クラスメートの須藤君だ。自動販売機の前に立っている。
何を買うのだろう。サイダーだったら、どうしよう。私が悩んでる隙に、迷ってる隙に、先を越されてしまったような気がしてしまう。別にレースや競争じゃなかったけど、なんとなくそんな気がしてしまう。
須藤君がボタンを押した。何かを取り出した。すると、こちらを振り返った。手を振っている。私も手を振り返した。
そして、私は、須藤君の方へ行った。歩くより少しだけ早く、走るより少しだけ遅いくらいの、時空を飛び越えるには一番合ってる速度で。
「え、あ、何。どしたの。村野」
須藤君が、少し戸惑っている。
「ねえ、須藤君さ。今、『どしたの。村野』って、ちょっと韻踏んだじゃん?」
「え?ああ、まあ、踏んだけど」
「つまりさ、今、何買ったのか、見せて」
「え?何、どういうこと?」
須藤君は、困りながらも、カバンを開けてくれようとしている。やっぱ、流石、須藤君。君は多分、性格が良い。
「…これだけど」
須藤君の手には、オレンジジュースがあった。
私は、それを確認して、自動販売機へとお金を入れた。
サイダーを探す。あった。ボタンを押す。押した。「押したなあ」って思った。
サイダーを、取り出した。
「…あの、つまり、どういうこと?」
須藤君が聞いて来た。至極当然だと思う。
私は、サイダーを開けた。
「私さ、この街で、一番最初にサイダー飲むね」
そう宣言してから、サイダーを飲んだ。
「え、ああ、そうなの?よくわかんないけど、俺も昨日、飲んだよ。サイダー」
……。
「暑いから、やっぱ、飲んじゃうよな、この季節」
……。
「って、どうしたの、村野」
「…須藤君さ、君はさ、何て言うかこう、多分、5分前行動とか、よくやるタイプだと思ってるんだけど、たまには、遅刻とか、した方が、人生経験だよ」
私はそう言って、空を見た。空は別に私を見てなかった。
「え?どういうこと?」
「…私も、よくわかってない。サイダーは、美味しいね。青春の、味がする」
私はそう言って、「あ、今のセリフ、自由律俳句ね」と、付け足した。
須藤君は、ジュースを飲んでいない。多分、家で飲むのだ。
私は、「また明日」と言って、なんとなくその場を去った。
その場を去った私は、家に着いた。多分、須藤君が須藤君の家に着くより少しだけ早く。わかんないけど。
宿題を始めた。ということで、ここまでは、ただの、宿題を始めるまでのプロローグだったのだ。
何のために勉強するのだろう、というよくある疑問が思い浮かんだ。未来のためって言われても、わかんない。でも、多分、明日のためだ。
明日は明るい。多分、えーと、なんだろう…そう、まるで、外で光る街灯のように。私は学校に遅刻しない。須藤君は、たまには遅刻してほしい。
なんとなく、外を見た。街灯が、実際に明るかった。
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