彼と私の恋人デート

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彼と私の恋人デート

     うららかな春の陽気の下、自転車を漕ぐこと20分。  彼と私は、街の西側を流れる川に到着する。  岸辺に目を向ければ、今日も釣り人で賑わっていた。のんびりと釣り糸を垂らす老人もいれば、ルアーとやらをあくせく投げる若者たちもいる。  河原のグラウンドは、日曜日の草野球を楽しむ人々の場所。少し離れたところには、フリスビーで犬と戯れる子供たちの姿もあった。  そんな光景を微笑ましく眺めながら、芝生の上にレジャーシートを敷いて……。 「いただきます!」  二人で並んで、お食事タイム。作ってきたお弁当は、おにぎり中心の素朴なメニューで、飲み物だって、水筒に入れてきた麦茶しかない。それでもデートで食べると、不思議と美味しく感じるものだった。  しばらくして。  満腹になって、空を見上げると、 「気持ちのいい青空ね。ハイキングには最適!」  そんな言葉が、自然と口から漏れてくる。  隣では、彼の苦笑い。 「ハイキングってほどじゃないけどな。遠出をしたわけでもないし、そんなに歩いたわけでもないし」 「じゃあ、サイクリングかしら?」 「まあ、その方が近いだろうけど……」  サイクリングというほど走っていないのは、私にも理解できている。でも、呼び名はともかく、これが私たちのデートなのだ。  ふと見れば、彼は少し表情を曇らせて、何か言いたそうな顔になっていた。私はピタッと、人差し指を彼の唇に押し当てて、言葉が出てくるのを堰き止める。  付き合い始めた頃、彼は何度も口にしていた。 「ごめんな。俺に金がないばかりに、なかなか遊びに行けなくて」 「気にしないでよ。こうして一緒にいるだけで、私、楽しいもの」  と、その度に私は返したけれど……。  最初のうちは、私も無理していたのだと思う。そして私の気持ちは、彼にも伝わっていたのだと思う。  部屋でイチャイチャしているのも悪くないが、それだけでは何だか不健全……。それが当時の、私と彼の共通認識だった。  確かに。  大学の友人たちは、彼氏と二人で映画を見に行ったとか、遊園地でキャーキャー騒いだとか、カラオケで歌いまくったとか、そういうデートの話を語って聞かせる。私も、それがデートというものだと思っていた。  でも。 「いいじゃないの。どうせお金なんて、社会人になれば普通に稼げるだろうし……。今は学生らしく、お金のかからないデートを楽しみましょう!」  と、提案した私の言葉。半分以上は、自分に言い聞かせるものだったけれど……。  思いのほか大成功を収めて、こうして週末の恒例行事になったのだった。  昔のことを思い出しながら、 「はい、いつもの質問。デートの本質は?」  と尋ねて、彼の唇から指を離す。 「……デートとは、恋人と二人で幸せに過ごす時間のこと」 「よろしい」  わざとらしく、まるで子供に対する先生のような口ぶりの私。でも笑顔は本心からのものであり、彼にニッコリと笑いかけた。  そう。  今のようなデートを繰り返すようになって、私は一つの真実を悟ったような気がしているのだ。  映画も遊園地もカラオケも、別に恋人と一緒でなくたって楽しめる。でも私たちみたいなデートは、恋人同士でなければ退屈な時間になってしまうだろう。  だから。  これこそが本当のデートであり、こういうデートで幸せを感じられる相手こそが本当の恋人なのだ、と。 (「彼と私の恋人デート」完)    
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