餅系彼氏の攻略法

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 異動初日、ほぼ初めて入る広報部の部屋で、一番に目についたのは太った男の人だった。ここまで横にも縦にも大きな人は、ほとんど見たことがない。なぜか分からないが、自然と目が吸い寄せられていく。そういうオーラをもった人物だ。名前は岡本さん。私と同じタイミングで中途採用された山田くんによると、部署の皆さんからは「餅」や「もっち」と呼ばれているらしい。私は後輩に当たるので「もっちさん」と呼ぶことに決めた。  もっちさんは、同じ部署だけれど、私とは別チームだったので、声を交わす機会はほとんどなかった。確か、初めて長い会話をしたのは、異動してから一ヶ月以上過ぎてからのことだったと思う。それは、コピー機のトナーの在庫が切れた時だった。  私は、急な会議で使うための資料をプリントしようとしていたのに、出せなくなって困っていた。それに気づいたもっちさんは、すぐさま隣の経理部の知り合いに掛け合ってくれて、そこで私のデータを出力してくれた。うちの部長は時間に厳しい人なので、無事に書類を揃えることができて大助かりだった。
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