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その11
約束された血の匂い/その11
麻衣
サングラス姿の倉橋さんは、アツシを無視してタバコを吹かしてる
私は哀れなカメの脇で、勝田さんからチェーンソーの使い方、手ほどきをね…
なにしろ、初めてだから
”ウイーン…、ブブ、ウイーン…!”
おお、エンジンかかったわ
「わー、重たいなあ。これ…」
「麻衣さん、じゃあ、この椅子の足で試し切りしましょう。俺が一緒に持って支えますから」
そう言って、私は勝田さんに後ろから抱えられるように、チェーンソーを両手に持って立ちあがった
...
「おい!マトをしっかり押さえつけとけ。まずはこの椅子でキレ味を計る」
「ハイ!」
若い男二人がアツシの体を、左右からがっちり押さえこんだ
「わー!やめてくれー!殺されるー!」
もうあらん限り絶叫して、声がかれかけてるわ、コイツ
「おい、気が散るから口ふさいどけや!…、いいですか、麻衣さん。俺の誘導に合わせて、ここを切断しますよ。まあ、コイツの足との隙間はわずかだし、多少切っちまってもかまいませんよ」
アツシは半狂乱で抵抗してて、こっちまでその”熱気”が伝わってくるよ
「ええ、じゃあ…。こうかしら」
”ウイーン…、ブブ、ウイーン…”
”グイーン、グイーン、ガリガリ…、ブブブッ…”
「ぎゃー!」
「あっ…、ちょっとやっちゃったかな…」
「ああ、そのくらい、最初はしょうがないですよ」
...
”スコーン!”
長さ約20センチの脚は床に落ちた
そしてすぐに、その角材にぽたりぽたりと、赤い血が数滴滴った
「いやあ、いい手さばきだ。刃の切れ味も問題ないようだし。じゃあ、今度は一人でやってみましょう」
「やめろー!やめさせてくれー!親分、何でもします、だから助けてください。この人を止めてください!」
ここで”撲殺人”が口を開くことになってる…
...
「…いいか、西城…。麻衣にチェーンソーで細切れにされたくなかったら、こいつに本郷麻衣個人からの処置ではなく、お前の仕出かした過ちをはっきり認めて、相和会幹部の処分に委ねる上申をしろ」
こういう場面での撲殺男こと倉橋優輔は、まさに鬼気迫ってる
静かな口調がかえって、張り詰めた空気を引き立たせてね
「もうすぐ嫁になるこの麻衣に、できれば人殺しはさせたくねえ。だが、麻衣だけは俺にだって、簡単には制止できないんだ。お前が頼むしかない。おい、起こしてやれ」
ようやく、カメの状態から元に戻されたアツシは、必死で呼吸を整えてる
「はあ、はあ…」
コイツ、もう脱水状態で、乾いた唇をワナワナ震わせてるよ
...
これから正面に立っている私に向かって懇願するらしい
「麻衣さん、あなたの言ったことは全部認めます。俺へのケジメは相和会のモンとして、しっかり仕打ちを受けますので、その手に持ったもの、止めてください。お願いします」
「しょうがないわね。せっかくコレ、振り回せると思ってたのに…。ダーリンがああ言ってるし、あんたが全部認めるんなら、バトンタッチして見物にまわるわ。ああ、勝田さんどうやって止めるんだっけ?」
これで、私の”仕事”は終りだ
結局、ヤツは相和会の人間として、組を売った行為を認めたことになる
私はこの世界のルールってのに精通はしていないが、かなり重大な処罰の対象にはなるだろうさ
西城アツシは、私に殺されるという恐怖から逃れたいあまり、咄嗟にその場しのぎをしたにすぎない
で、この後、”本来”の裁きを受けることになる
では、プロの世界のお仕置きを見届けさせてもらおう
ダーリンの撲殺人ぶりを…
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