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その12
約束された血の匂い/その12
麻衣
西城アツシの絶叫がこだまする中、私は目に前の出来事から目をそむけなかった
だが、私の視界の中心はあくまでマトではなく、仕事にあたる”撲殺人”倉橋優輔の姿だったわ
思えば、彼が私のボディーガード兼監視役としてついてくれた”最初”から、お互い愛し合うようなる過程の中で、常に二人の間には、今裁きを受けているアツシを巡る会話があった
私の頭の中では、そのいくつものシーンが走馬灯のように甦っていたわ
...
「倉橋さん、どうかしら?」
ヒールズのカウンターで、倉橋さんの肩をもみもみしている私は、目の前の”勲章”を見つめながら聞いたわ
「うーん、麻衣ちゃんのマッサージは、いつもながら最高だよ。将来はこれで喰っていけるぞ」
「やだなあ…、倉橋さん。まだ私のことわかってないの?この私に接客業が務まる訳ないでしょ。気に入らない客にあーだこーだってなら、その場でぶっ殺しちゃうよ」
「ハハハ…、なら、俺のことはまんざら嫌いでもないってことか」
「ええ。大好きよ、あなたのことは…」
「お世辞でもうれしいよ。女子高生にそう言われりゃな。ところで、うちの若いもんも女子高生といい仲なんだが、この子、友達じゃないかい?」
倉橋さんは、ポケットから1枚の写真を取り出し、肩もみ中の私へ、後ろ手で差し出した
「あの、これって…」
...
肩もみを中断して、その写真を両手にした私は、唐突に声を上げた
「やっぱりか…。”あの夜”、本家で一緒だった子だと思ってね。ちっちゃくてショートカットが似合ってたその子には、見覚えあったから…」
「あの…、隣の男が彼氏ってことですか、倉橋さん!」
「ああ、そうらしい。俺の勘違いじゃなきゃ、そいつが例の廃工場で体を奪ったのは、その子のはずだ」
「…」
私は言葉が出なかった
どう見てもその写真の二人、ラブラブだし…
久美…、お前、強姦された男と何やってんだよ…
...
「麻衣ちゃん、アツシは”中央公園のメンツ”に加えたから…。前日にいきなりで、仕事の内容もロクに告げなかった。だから、”彼女”には話してないと思う」
「そうですか…。久美は明日の総指揮にあたる真樹子さんにつけてるんで、明夜、二人はばったり顔を合わせるはずです。当然、後日久美とアツシは”その場での話題”で盛り上がるでしょう。その上で、二人の様子によっては、別れさせます。力づくでも…」
「ああ、その方がいい。自分んとのモンをこう言うのは情けない話だが、ヤツは女を腐らせる男だ。クズさ」
クズと吐き捨てたアツシを、倉橋さんのような傑物がなぜ子分にしたか…
その訳を知っている私は、血がたぎったよ
「クズ男のケジメ、あなたと私で、いずれやってやりましょう」
「ああ、がっつりやってやろうや、二人で…」
運転中の彼は、バックミラー越しに後部席に座ってる私にニヤッと笑いかけてた
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