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その14
約束された血の匂い/その14
麻衣
「麻衣…、北田久美は、お前に”後”を託されなかったからなんだらだろ?まあ、その子に南玉連合のリーダーが任じゃないってんなら、なぜ事前にケアしなかったんだ?お前なら、そんなこと朝飯前だろうに…」
私との婚約が公になった後、彼は麻衣ちゃんと呼ぶのをやめた
「うーん、久美にはいい加減、疲れてきちゃったのよ。かわいい奴ではあるんだけど、いつまでたっても学習能力が足りなくてね…。突き放したのよ。したら、やってくれたわよ。私が”戻った”時には、その辺のズべと変わりなくて、南玉出ちゃってて…」
ヒールズの厨房で洗い物をしている私は、奥のボックスで横になってる優輔さんと、けっこう大きな声でお話だ
...
「そこで決意したわ、やっと。根性叩き直してやれって、ボコボコに殴ってやってさ、その場でクソ男とも決別宣言させてね。その後で久美には、いろいろとアツシの野郎のこと聞いたわ。尋問調じゃなく、さりげなく少しずつ…」
その間感じたのは、久美がアツシのことを決して悪く言わなかったことだ
思ってた以上に純真だった久美が、ホント不憫に思えたよ
ゴメンな久美
やっぱり強引に別れさせるべきだったよ、もっと早くにさ…
久美の口からクソ野郎の元カレの話を聞くたび、私は懺悔の気持ちが湧き出たよ
「あのクソ男、私とおけいのこと、哀れなヤク中の廃人扱いよ。他にも、私と久美の仲を裂くような話を垂らしまくっててさ…。もう、私の当面の目的は、ヤツの抹殺に決定したわ」
「でも、都県境のガキ事情と絡めるのは、どうなんだかな。ヤツはいずれ組で制裁できるし、北田久美を汚した代償は払わせるから、お前は必要以上に入り込まない方がいいよ」
上下スウェット姿の彼はソファに横たわり、左手で頭を支えた態勢で、体は洗い物中の私に向けていた
...
「手ぬるいわ、それじゃ。多少のお仕置きで終わりになんてできない。たっぷり餌を撒いて、嵌めるのよ。ヤツの汚い本性をそっくり引っ張り出してやるわ。これ以上ない裁きを加えてやりましょうよ、私たちで。星流会もこの際、砂垣いじれば引き込めるしさ。面白くなるわよ、優輔さん」
「ふふ…、麻衣の考えることは相馬さんの域に達してるな、もう。まあ、アツシをやってやるのは、1年前から二人で約束してたしな。その間、いろいろと積んできた。でもよ、そうすぐ俺の新妻だし、お前は。今回はセーブさせたいな。これが俺の本心なんだ」
「ううん、私にキャンセルはないわよ。アツシのクソには、1年以上もタメをきかせてきたんだもの。しっかり念入りによ‥」
相和会と東西広域両勢力との新しいフレームが確立したのと時期を同じくして、本郷麻衣と相和会幹部の倉橋優輔が結婚する…
この局面なら、クソ男の処刑に際し、いろいろ巻き込めるわ
あの世の相馬さんも喜ぶってもんよ、はは…
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