2人が本棚に入れています
本棚に追加
竜の化身
その青年のまわりには多くの死体が横たわっていた。
首を引き裂かれ絶命した者、皮膚の大半が焼かれ力尽きた者、中には鎧をも粉砕された死体もあった。そしてその者らの顔は皆恐怖に包まれており、まるで人間ならざる怪物と対面したかのような、怯えた様子だった。
青年は自分の両手を見る。掌は大量の血が付着していた。それは手だけでなく、綺麗な銀髪にも、見つけている鎧にも、全身が血によって染められていた。その血が自分のものでないことは、今しがた大量の人間を手にかけた青年自身がよくわかっていた。
長く伸びた爪、矢をも弾く頑強な肌、その気になれば生み出すことのできる灼熱の炎。青年の体はそのほとんどが人とかけ離れたつくりをしていた。そして人を簡単に殺めてしまえるような、危険なものだった。
青年はそれらを使い、人を殺していく。何の感情も抱かず、まるで息をするように。一寸の躊躇いもなく、一片の慈悲も持たずに。
そうしてまた、命がひとつ奪われる。
そんな青年を見て、多くの人間は恐怖を感じる。味方であるにもかかわらず、その殺戮を称賛する者は誰もいなかった。しかしそれでもなお青年は戦うことをやめなかった。まるでそれが、自分の生きている証だとでも言うように。
次第に人々は、畏怖と嫌忌の意をこめ、まるで竜のような能力をもつことからその青年を"竜の化身"と呼ぶようになった。
最初のコメントを投稿しよう!