竜の化身

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竜の化身

 その青年のまわりには多くの死体が横たわっていた。  首を引き裂かれ絶命した者、皮膚(ひふ)の大半が焼かれ力尽きた者、中には(よろい)をも粉砕(ふんさい)された死体もあった。そしてその者らの顔は(みな)恐怖に包まれており、まるで人間ならざる怪物(かいぶつ)と対面したかのような、怯えた様子だった。  青年は自分の両手を見る。(てのひら)は大量の血が付着(ふちゃく)していた。それは手だけでなく、綺麗な銀髪にも、見つけている鎧にも、全身が血によって染められていた。その血が自分のものでないことは、今しがた大量の人間を手にかけた青年自身がよくわかっていた。  長く伸びた(つめ)、矢をも弾く頑強(がんきょう)な肌、その気になれば生み出すことのできる灼熱(しゃくねつ)(ほのお)。青年の体はそのほとんどが人とかけ離れたつくりをしていた。そして人を簡単に(あや)めてしまえるような、危険なものだった。  青年はそれらを使い、人を殺していく。何の感情も(いだ)かず、まるで息をするように。一寸の躊躇(ためら)いもなく、一片の慈悲(じひ)も持たずに。  そうしてまた、命がひとつ奪われる。  そんな青年を見て、多くの人間は恐怖を感じる。味方であるにもかかわらず、その殺戮(さつりく)称賛(しょうさん)する者は誰もいなかった。しかしそれでもなお青年は戦うことをやめなかった。まるでそれが、自分の生きている証だとでも言うように。  次第に人々は、畏怖(いふ)嫌忌(けんき)の意をこめ、まるで竜のような能力をもつことからその青年を"竜の化身"と呼ぶようになった。
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