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リセンの選択
突如、竜の力が失われた。
そんな噂が広まったのは、ゼンギューブ国との戦いで我が国が勝利してからおよそ一か月後、体勢を立て直し防御を固めるゼンギューブ国へと再び侵攻した時からであった。
あの日から、リセンは何日もずっと考えていた。今の自分が、他人からの評価で感情が左右されるほど覚悟の薄い自分が竜の力を使っていいのかどうかを。そして暫く悩んだ末、出した答えは否だった。
自分の影響力にも、その力の強さにもリセンは責任を持てずにいるのだ。確かにそんな自分が、国の行く末を左右するほどの力を使っていいはずがない。もう遅いのかもしれないが、今からでもこの国を本来の道へと進ませるため、リセンはその力を封印したのだ。
「おい、聞いたか? うちが戦争を挑んで敗北したって」
「らしいな。竜の化身が現れる前以来じゃないか? 竜の化身の力も失われたらしいし、この国はどうなってしまうんだ……」
王都ではそんな会話が随所で交わされていた。今回はこちらの国がゼンギューブ国へ侵攻した際の敗北であったため、まだ被害は小さいが、逆に侵攻された際に再び敗北してしまえば、この国は他の国の占領下におかれてしまうのだ。そうなれば民も今まで通りの生活はできなくなるだろう。
「だけどどうしたんだろうな、竜の化身」
「さあな。俺たちには理解もできない世界だよ」
これまで様々な戦に勝ち続けたスクレーブは、久々の敗北に少なからず動揺していた。
それは民だけでなく兵士、延いては国家さえもこの異常事態に焦りを覚えていた。
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