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「力が使えなくなったとはどういうことだ、リセン」
スクレーブ王城の謁見の間で、リセンは低く重い声を放つ国王コルネリウスの前で頭を垂れていた。突然竜の力を使わなくなったことに関して呼び出されたのだ。
謁見の間には国王とリセンだけでなく、スクレーブの重役である騎士隊長や魔術師協会の賢者、大司祭などが足を運んでいた。それらの人物たちから厳しい視線を受けながら、リセンは顔を上げる。
「言葉の通り、力が使えなくなったということです」
「何故だ。これまでは使えていた力が何故こうも突然使えなくなるのだ? そなたの力がなければこの国の戦力は著しく低下するのだぞ」
国王コルネリウスは焦りや怒りのためか、いつも以上に取り乱し、玉座から腰を浮かせてリセンに訴えかける。
「訳あって力を使うわけにはいかなくなったのです」
「なんだ、その理由とは何なのだ?」
「……それは、言えません」
「な、なんだと!」
よほど頭にきたらしく、国王コルネリウスは思わず玉座から立ち上がり拳を握った。おそらく相手がリセンでなければ、この場で部下に命じて斬り伏せていたことだろう。
他の者たちもいつもであれば無礼だろうと割って入るところだろうが、相手がリセンだからか、今は複雑な表情を浮かべるだけで行動に移す者はいなかった。
「落ち着きください陛下。ここで陛下が取り乱しますと他の者に示しがつきませぬ」
「ぐぬぅ……」
しかし国王コルネリウスの怒りは、側に控えていた宰相モーリッツによって抑えられた。
宰相モーリッツは齢七十を超える老巧な知略家である。国や国王のことを第一に考え、自分は二の次という忠義心の塊のような人物で、そのおかげか今では国王コルネリウスの一番の相談者である。
「……どうあってもその力は使えぬのか?」
幾らか冷静さを取り戻したコルネリウスは玉座に座りなおすと今一度問うてきた。
「はい……」
「そうか……。だが戦場には出てもらうぞ。竜の力がなくともできることはあるだろう。それに戦の中に身を置けば、再び力を使うときがくるかもしれんからな」
リセンは一瞬不満そうな顔をしたが、それでも力を使わなければいいだけの話だと思い、すぐに頷いた。
「お前がまた竜の力を使うことを願っておるぞ」
そして退場の命を聞くと、すぐに立ち上がって謁見の間を去った。
リセンが謁見の間を去ったのを見届けると、コルネリウスはモーリッツに視線を投げた。
「そなたは今の我が国が他国の侵攻を受けても耐え切れると思うか?」
「相手にもよりますが、たとえ勝ったとしても大きな被害がでるでしょうな」
「ふむ。だとすればやはりリセンの竜の力を取り戻すべきではないのか?」
その質問にモーリッツは目を細め、口角をわずかにあげた。
「そのことでしたら心配には及びませぬ。私の方で進めておきますので……」
「……そうか。頼りにしているぞモーリッツ」
モーリッツは恭しく一礼する。その顔は、いつものコルネリウスに対応する時のものではなく、様々な策略を練る際の、誰もが触れてはいけないと思わせるほどの真剣な顔だった。
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