リセンの選択

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 それからしばらく、スクレーブの動揺は続いた。民からのリセンへの対応は相変わらずで、最近ではむしろリセンが竜の力を使えなくなったことに怒り出す者もいた。  だがそれもとあるひとつの戦争によって収縮(しゅうしゅく)されることとなる。それはリセンが竜の力を封印し始めて三か月後のことだった。  協定を結びスクレーブをじりじりと追い詰めていた各国だったが、その中の一つの国が、スクレーブが竜の力を失ったということを聞いて抜け駆けしたのだ。その国はデヒラーフェンという国だった。国土もそれなりに広く、なにより注目すべきは資源の豊さで、希少金属(きしょうきんぞく)や作物が豊作(ほうさく)であることで知られている。  そんなデヒラーフェンは世界中が食料や資源に苦しむ中、着実に力を戦力を上げていった。そしてついに協定を破棄し、世界統一に乗り出したのである。  しかし宰相モーリッツの手腕(しゅわん)のためか、もしくは度重(たびかさ)なる戦によって兵士たちの能力が強化されていたのか、スクレーブはリセンの竜の力なしに驚異の粘りを見せた。そしてその間に協定を破棄(はき)された諸国が一気にデヒラーフェンに攻め込んだ。もともと国土も小さく資源も特に多くないスクレーブよりも、デヒラーフェンを占領(せんりょう)した方が()があることは明白だった。  やむなくデヒラーフェンはスクレーブから兵を退き、自国の防衛に乗り出したのだ。  そしてその戦争で、スクレーブは周囲の国から一目置かれるようになった。資源も国土も多いデヒラーフェンの侵攻を、竜の力なしで食い止めたのだ。そのことにより他国も安易にスクレーブに攻め込むことができなくなり、しばらく睨み合いが続くこととなった。  一方、スクレーブ国内では各地で祝杯の(うたげ)が開かれていた。間違いなくこの度の戦は大国ナトゥーアとの戦以来の困難なものだった。その戦いに竜の力なしで、自分たちの力だけで勝利したことで民たちは活気付いているのだ。  しかし宰相モーリッツをはじめ、騎士隊長や魔術師協会、司祭達は民ほど浮かれる気にはなれなかった。何故ならこの度の戦が結果的に見れば勝利したと言えるが、こちらの損害も多くギリギリの戦いだったということを知っているからだ。そして痛感していた。やはり竜の力は強大で、この国には不可欠であるということを。  とはいえそんなことを知る由もない民たちは喜び、そして次第にリセンの力が無くとも戦に勝てるのではないかと思い始めた。そのおかげかリセンに対する態度も軟化(なんか)し、完全にとまではいかないがリセンに怯える者も少なくなっていった。
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