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VOL.1 ”彼女が泣く理由”
2学年上の先輩たちの卒業式で泣く彼女に、理由を問うたことがある。
関わりがあるならまだしも、あんたは帰宅部だし、ましては2個上だぞ。
そしたら彼女はこう言った。
「例えばさ、この中には受験に成功した人がいる。
まだ合格を祈って国立大の受験の結果を待つ人がいる。
3年間片思いをした人がいる。
彼女が何人もできて、今はそのうちの一人と付き合っている人がいる。
卒業式の後、告白しようと決意している人がいる。
部活の控えだった人がいる。
プレーが認められ、大学から声がかかった人がいる。
特に何もしなかった3年間だったなとぼんやり思う人がいる。
全然だめだったから、進む専門学校でちゃんと学ぼうと思う人がいる。
夢が見つからなかった人がいる。
卒業して、どこか遠くへ1人旅立つ人がいる。
今日が来ないでほしいと、こっそり泣いた人もいる。
笑ってさよならを言おうと心に決めた人がいる。
ひとりひとり、物語は違うけれど、それぞれの物語が共に歩んだことは変わらないと思うの。それを証明する日が今日でしょう。
すべての物語が輝いていて、彼ら自身だけのものだって考えたら、愛しくて、言葉にできないけれど、全部全部抱きしめたいというか。
おめでとう、素晴らしかったでしょって、称えたい。
それぞれが物語を胸に、今日を迎えているんだよ。
こんなに素晴らしいことはないよ。」
自分の目から涙がこぼれる感覚が、はっきりと分かった。
彼女は恥ずかしがっていなかった。涙でつっかえていたけど、ちゃんと伝わってきた。
彼らにどんな3年間があったかなんて、わからないけれど。
そこに確かな物語が織りなしあっている。
すべての物語に、祝福を。
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