VOL.1 ”彼女が泣く理由”

1/1
38人が本棚に入れています
本棚に追加
/24ページ

VOL.1 ”彼女が泣く理由”

2学年上の先輩たちの卒業式で泣く彼女に、理由を問うたことがある。 関わりがあるならまだしも、あんたは帰宅部だし、ましては2個上だぞ。 そしたら彼女はこう言った。 「例えばさ、この中には受験に成功した人がいる。 まだ合格を祈って国立大の受験の結果を待つ人がいる。 3年間片思いをした人がいる。 彼女が何人もできて、今はそのうちの一人と付き合っている人がいる。 卒業式の後、告白しようと決意している人がいる。 部活の控えだった人がいる。 プレーが認められ、大学から声がかかった人がいる。 特に何もしなかった3年間だったなとぼんやり思う人がいる。 全然だめだったから、進む専門学校でちゃんと学ぼうと思う人がいる。 夢が見つからなかった人がいる。 卒業して、どこか遠くへ1人旅立つ人がいる。 今日が来ないでほしいと、こっそり泣いた人もいる。 笑ってさよならを言おうと心に決めた人がいる。 ひとりひとり、物語は違うけれど、それぞれの物語が共に歩んだことは変わらないと思うの。それを証明する日が今日でしょう。 すべての物語が輝いていて、彼ら自身だけのものだって考えたら、愛しくて、言葉にできないけれど、全部全部抱きしめたいというか。 おめでとう、素晴らしかったでしょって、称えたい。 それぞれが物語を胸に、今日を迎えているんだよ。 こんなに素晴らしいことはないよ。」 自分の目から涙がこぼれる感覚が、はっきりと分かった。 彼女は恥ずかしがっていなかった。涙でつっかえていたけど、ちゃんと伝わってきた。 彼らにどんな3年間があったかなんて、わからないけれど。 そこに確かな物語が織りなしあっている。 すべての物語に、祝福を。
/24ページ

最初のコメントを投稿しよう!