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「何か飲んだら?」
どうして注文しないの、とは訊けなかった。でも、彼は落ちつかなさそうに周りを見た後、テーブルに分厚い封筒を置いた。
「悪い、中絶してくれ」
あまりな言葉に、私は石像のように固まった。表情が凍っている私を見ながら、彼は次に鍵を出してきた。
「返す。
結婚もできない。中絶費用と慰謝料。それと鍵だ」
信じられない言葉に、やっと私は動けるようになった。
「どういうこと?」
怒りの滲む声に、彼がうろたえている。
「俺……やっぱり結婚早い。仕事も大きいの来たし、それに集中したい。
まだ親になるの無理だ。悪いけど今日で別れてくれ」
言うと、私の返事を待たないで立ち上がった。そして、さらに呆れたことを言ってきた。
「俺の鍵は後で送ってくれ」
言い終わると、今度こそ彼は急ぎ足で店から出ていった……
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