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その11
その11
麻衣
「では、これ…。エリカちゃんにお渡しください」
私は通称”評判のよくない先輩”、まあワタシ的には”アンコウ”こと三田村峰子さんに、”品”を二つ差し出した
ちなみに、リボンのついた小さな箱に入った中身は二つとも同じだ
アンコウ先輩はテ-ブルに置かれた”それ”と私を、目で2往復させてから口を開いたわ
「約束は一つだったんだから、お前がいっこもらっときな。それで、こっちはペイってことなんだから」
「そんな高級品、私には分不相応です。先輩が受け取って使ってみてはどうですか?」
「フン、私がこんなの塗ったって滑稽なだけなの分かってて、嫌味な奴だねえ、お前は」
「はは…、なら、売っちゃえばいいですよ」
「じゃあ、そうするか」
アンコウはそう言うと、高級マニュキアの入った箱二つをさっさと上着のポケットに押し込んだわ(苦笑)
...
「とにかく、万事周到だったようだね、今回は。ヒヒヒ…」
早速出たな
背筋ゾーッのこぼれ笑いが
「先輩の人選にはいつもながら感服ですよ。”3人”とも、絵に描いたように動いてくれましたから…。ありがとうございます」
アンコウはフンフン頷きながら、上機嫌でタバコをスパスパしてる(笑)
「でもよう、その生爪、本物だったんだろう?」
「そうですよ。組のストックです」
「…、女の指もストックあるのか?」
「いえいえ、今回は比較的小柄な男の小指からのをチョイスしてもらいました」
「ゲーッってとこだわ。見なくてよかった…」
そう言って、アンコウはふっくらの背中を丸めながら、タバコを灰皿で押し消した
...
「それで、どうでしょうね…?都県境のざわめきは、先輩のアンテナにはいろいろと届いていると思うんですが」
「勃発寸前だね、もう近いよ」
「そうなりますか、やっぱり…」
「ヒヒ…、まったく嬉しそうな顔してるね、麻衣。今度は何をやらかすつもりだい?」
「一言で言えば誘導です。といっても、グイグイじゃなくて、やんわりとですね。あー、そっちじゃないでしょ、こっち戻ってねって、やさいしく声掛けです。ますは。そんで、聞き分けなけりゃ、てめー、行くぞ、コラ!まあ、こんな感じで考えています」
アンコウは苦笑いだわ
...
「フン、どこに誘導だかは聞かんが、それやって、どれだけ”敵”を怒らせるか、私には概ね分かるがね…」
「ええ、構いませんよ。どんどん怒らせてやりゃいいんです」
さすがにアンコウ先輩、首を横に何度も振って、たまらんわって顔つきだ
「あのよう…、良く聞くんだよ、麻衣。お前はもう、相和会の撲殺男夫人と見なされるてるんだよ。以前のようにやりたい放題じゃ、”連中”もこれまでとはさ、対応が違ってくるに決まってんだろうが」
「そんなの、百も千も承知ですよ。この後も先輩、頼みますね…」
「やだよ、お前の巻き添えで死にたくないもん。もう、勝手にやれ!」
はは、ガラにもなくビビッてごねてるわ、この先輩…(笑)
...
「そんなこと言わないで、先輩には今後もお力を借りる局面、おそらくですから。深海から超能力、お願いしますよ。さらに刺激的ですよ、私の”仕事”は…」
私はテーブルの上にのっかってる、先輩のふっくらした腕を手で撫でなでしながら、囁くようにね…
人の表には滅多に現れない人だから、こういう時はスキンシップが利くんだわ
「倉橋麻衣となっての依頼とあらば、弾むんだろうね?ぐんと…」
なでなでで、早速効果が出てきたぞ
「もちろんですよ。先輩のブッキングとコーディネートを、私が派手に仕上げます。かつてない作品を作り上げますよ。まあ、ここまで来ると、エンディングは私にも見えませんが」
「考えとく…」
と言っていたが、深海魚の先輩のご様子は、まんざらではなかった
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