その2

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その2

その2 砂垣 ルーカスの駐車場に停めてある愛車の中で、その茶封筒を開けてみたんだが… 中には、ノートのきれっぱしが1枚だけだった 「なんだよ、これ…」 ”××町2-11-9 大黒病院101号室” 書かれていたのはこれだけだったよ どう見ても女の字体で、ご丁寧に部屋番号の数字だけ、ピンクのマーカーがされてて… 差出人はこれも明記されていなかったから、誰からかは分からんが… ひょっとして、ホントにデートの誘いか? まさかなあ…、はは… 第一、何で真樹子に一回送ってんだよ さっぱりだ まあ、とにかく行ってみりゃ、わかる まだ4時だし、面会とかなら今からでも大丈夫だろう ... ××町っていうと、ここから車で15分ってとこか それにしても大黒病院って行ったことはないが、確か小っちゃい個人病院だよな で、ほとんどやってんだかやってないんだかって規模じゃないかな ... 着いた… いやあ、予想以上に寂れてんじゃん ケガか病気だかは知らんが、こんな場末のボロ病院じゃ、余計具合悪くなっちまいそうだぜ 狭い駐車場には1台も車止まっていないし 俺は茶封筒を持って車を降り、入口玄関に向かった ほこりだらけの、ふた昔前かよって年季もんの開き扉を引いて中へ入ると… うす暗い廊下の脇に一応、受付があるわ 「すいませーん」 小窓からは人が見えないので、声かけると、しばらくして中年らしき女の人の声がかえってきた 「なんですかー?」 は? 愛想ゼロのそんな受け答えだけで、しばらく待ってもこっちに出てきやしねえや どうなってるんだ! なんなんだよ、この病院は… ... 「あのー、面会に来たんですけど。ええと101号室のなんですが…」 「…」 なんだよ、今度は声も帰ってこねえじゃんか ふう…、なんだっての! まあ、これじゃデートってこと、絶対ねーや 「あのー!」 もう一度、奥に向かって大きな声を発すると、少ししてスリッパの音が耳に入ってきた その主は受付の中じゃなくて、廊下の奥からだった そして間もなく、俺の前にやってきたのは、デカい中年の男だったよ とりあえず白衣着てるし、医者みたいだ 「あのう…、101号室の…」 「ああ、今会わせてやる。こっちだ」 何ともぶっきらぼうで感じ悪いや こんな病院あんのかよってところだ、全く… ... 「ここだよ。入んな。終わったら勝手に帰っていいからよ」 うわあ…、これまた古い市営住宅みたいな木の扉だ 医者らしき男は、きちっと閉まっていない状態の戸を軽くおっぺすと、自分はさっさと引き揚げてった 病室内に顔を突っ込むと、ベッドがふたつの狭い部屋だった 一目で、ひとつは空きベッドで、窓際の奥は人が寝ているのが分かった さあ…、とにかく中へ入ろう 「おじゃましますよ…」 俺はゆっくりと、窓側のベッドへ足を運んだ 「あのう、俺、こういう手紙もらって、ここ来たんですけど…」 どうやら男の人らしい 「ああ、砂垣君…」 そう言ってこっちに向けた顔を見て仰天した えーっ! アツシさんなのか…?
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