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その3
その3
砂垣
指か!
小指以外を除いて左手が包帯でぐるぐる巻きで、”それ”は吊るされていた
なんか嫌な予感がしてきたな…
これから先を聞くのが怖いよ
「あの…、ケガですか?アツシさん…」
「うん、チェーンソーで指を切断されて…、組に…」
俺は瞬時で、背中から汗がどっと噴き出た…
「でも、静岡の親分さんのご慈悲で、すぐここに運んでもらって…。手術して…」
「えー?くっついたんですか、小指…」
俺は改めて、彼の太い左腕の先端に目をやった
おお…、どうやら指、ありそうだ!
...
「まだ絶対安静で何ともらしいんだけど、ここの病院、そういうのよく請け負うらしいんだ。その筋の人たちが利用するみたいでさ…」
アツシは見るも痛々しく、元気はないが、しっかりした口調ではある
「それで、何で?そんな目に遭わされた理由はなんです…」
まあ、ここに誘導してきた窓口が真樹子とくりゃ、だいたいは察っしてってとこだけど…
クソッ!
...
「あのよう、さすがに細かくはここでは離せないんだ。そこのティッシュの下に紙があるから…」
「ああ、そこですね…」
「中に伝えたいことを書いてある。まず読んでくれ」
俺は手にしたその紙、正確にはレポート用紙に目を通した
片手のこんな状態で書き留めたものだけに、さすがに字はかなり乱れていた
これは…!
「あの、アツシさん…」
「…、捕捉があるから、ちょっと枕元に来てくれるか」
どうやら耳打ちで”補足”とやらを話してくれるようだ
それは約2分程度だったろうか…
俺はアツシからの耳打ちを聞いて戦慄した
彼のその補足は制裁を受けたいきさつと、その場での詳細だった
いや、他にもあった
まあ、”それ”はいい、とりあえず…
...
なにしろ、その現場に麻衣の野郎が、立ち会っていたということだよ
しかも、アツシの今の話じゃ、裁きの進行役は17歳のあの女だと!
この手の進行役は、言わば拷問人の役割に相当する
なんでも麻衣の奴、理詰めでねちねちと追いこんできて、最後はあのイカレた小娘が自らチェーンソー片手に、”ミンチにして出血死させてやる!”と叫んだってんだ…
狂ってるって…、絶対!
...
結局、何度も何度も命乞いして、何とか指一本で勘弁してもらったってことなんだが…
最後は故相馬会長の弟分、明石田さんの意が働いたらしい
いくらなんでも、相馬会長の実子が連れてた友人だった人間だし、そこまでだとね
いわば温情判決の一声によって、救われたってところなんだろう
その報が現場に届いた際、麻衣と倉橋さんはアツシさんをぶっ殺すと聞かなかったらしく、周りが止めるに往生したというしな
なんて恐ろしい輩なんだ、あいつら…
あの二人がもうすぐ夫婦になるかと思うと、ゾッとするぜ
...
とにかくだ…
その場の経緯を聞いて、身の毛がよだったよ
あの狂気の麻衣と婚約した撲殺男は、指5本分の長さを計って、腕の肘あたりに線引いてチェーンソーの切っ先当てたってんだから…
それを麻衣は平気な顔で見物してたってことさ
アイツは本物の気狂いだよ
異常者だって!
...
「…、あとは書いてる通りだよ。もうあんたとは会えない。俺は殺されたくないしな。その紙はすぐ焼いてくれな。了解してくれるか?」
俺は無言で頷くしかなかった…
「それじゃあ、アツシさん、お大事に。全快を願ってますよ…」
こう言って、俺は急いでココを出たさ
そして車を吹っ飛ばし、ルーカスに戻った
まずは新設のサウナに入って、体をリフレッシュしよう
あんな不気味な病院の残り香なんか、さっさと体の奥から消しちまわねえと…
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