その7

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その7

その7 砂垣 夜の新宿なんて、ホント久しぶりだな エリカとの時間は9時過ぎってことにしてあるから、まだ時間がある …昨日、メモにあった電話番号に連絡したら、エリカ本人と話ができた 余分なことは話さず、アツシが行けないので預かり物を届けるから、明日店でと… 電話の声からすると、20台後半までいってないかな 今どきの軽いぶりっ子調方で、アツシが行けないと言っても、さらっとしてた お目当てのマニュキアさえいただければ、それでOKってとこなのかな もうすぐ会うことになるが、果たしてどこまで話すべきか… 場合によっては、向こうからも”特段”の話が飛び出すかもしれないが… ... うーん、さすがにこのあたりは活気が違うな 同じ東京でも埼玉寄りとは 当たり前だわな(爆笑) おっ…、あそこの人だかり… 一際、目立つ派手な格好と佇まい… 俺でもすぐわかるわ ロックのライブ聴きに並んでる連中だ あそこ、たしか新宿ロフトがあったよな まあ、最近はバンドブームってことらしいし ここから見回してもあそこの若もんからは、なんだかんだ言ってもエネルギーがビンビン伝わってくるよ だけど、俺なんかに言わせりゃ、所詮雑音だわ わかんねえや、あんなの聴く感覚って はは…、なにしろ俺のカーステはアイドル系の歌謡曲専門だし、カラオケはもっぱら演歌だからな…(笑) えーと…、もうすぐ9時だし、そろそろ行ってみるか ... そこから歩いて約10分… 路地裏の7階建てビルにクラブJはあった 狭いエレベーターを4階で降り、一歩進むともうそこが店の入口だ さすが、都心の密集地にひしめき立つ雑居ビルだ 閉所恐怖症の方、ご注意ってとこだよな(苦笑) ... 「こんばんわー」 ドアを開けると、扉上部のドアチェックにぶら下がった鈴の音が鳴ってる 店内は縦長で、10坪もないかな 結構明るい雰囲気で、お客も一組いた はは、ちょっと安心したわ 「いらっしゃいませ…」 30代と思われる”それなり”の女性がすぐに出てきたわ 「あのう、エリカさんと9時頃ってことになってるんですが…」 「ああ…、では、あちらの奥へどうぞ…」 俺はカウンターの陰になってる、奥のコーナー席に案内された 「今、エリカちゃん来ますので」 さて…、一体エリカちゃんとはどういった展開になるのか… 俺は、アツシから預かった”品”をソファの脇に置いて、”彼女”を待った ... コツ、コツ、コツ… そのヒールの靴音は、やや速足な感じだった いよいよご対面となるぞ 「いらっしゃいませー!エリカで~す!」 ”エリカちゃん”は俺の右横に座った 濃いピンクのスーツ姿で、割と小柄のようだ どうも俺は女となると、顔を見るより先に、体へ目が行ってしまうタチでね、ヘへ… 胴体と足は目を通したんで、では…、お顔を拝見だ 「???」 ぎゃー! コイツ…、本郷麻衣じゃんか…! 「砂ちゃん、こんばんわ」 「麻衣…、お前がなんで…」 「いやだなあ…、私、エリカよ。ちなみに上の名前は”きょうだけ”よ」 ふざけんなって! 今日だけエリカの麻衣ってかよ… ... 「砂ちゃん、これ、アツシさんのキープボトル。水割りでいい?」 「…」 「心配しないでいいわよ。毒なんか入れないわ、こういうとこではね」 俺はもう固まってたよ… アタマん中はパニクっちゃってるし、額からも汗がジワーって噴き出てきたわ 「はい、どうぞ…」 体を密着させて、グラスを俺に差し出す麻衣の顔はかわいいが、俺には悪魔がかぶってる仮面にしか見えねえよ… ... 「私に渡すもの、あるんでしょ?早速いただくわ」 俺は左の尻の脇に置いてあった、”品”をコイツに差し出した 受け取るや否や、麻衣はすぐにリボンを外し、包装紙を乱暴に破って中を開けた 「これ、高いんでしょ?私みたいな色気のないガキにはまだ無縁ね。ああ、ちゃんと渡しとくから安心して」 この野郎、周到に言い回しを計算してやがる 本物のエリカはどこにいるんだよ… だが、俺にはここで聞けねえよ 麻衣の口から出る言葉、想像すると怖いって ... 「ああ、そうそう…。私もお返しのプレゼント渡すんだったわ。はい、コレ…」 なんだよ、コレ… 目の前に置かれた”品”は、マニュキアのより一回り小さく、白い無地の包装紙に黒いリボンが施されていた 「早く開けてみて。アツシにはさ、あなたにオープンしてもらうこと、了解してあるから」 何言ってんだよ、このイカレ女め! アツシから事前了解って… 「なにやってんのよ!さっさと開けなさっいって」 来たよ… このメリハリの利きも、更にグレード上がってるわ 他のホステスや客もこっちを見てるが、麻衣は涼しい顔してやがる… 「ああ、開けりゃあいいんだろう。今やるさ…」 俺はもうヤケクソだった どうせこの中身、ロクなもんじゃねえよ…
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