願わくば貴方の好きな花になりたい

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私の好きな人は、花が好きで花言葉にも詳しかった。 それを知ったのは、高校2年になってすぐ。 私の実家は生花店をしていて、親が学校にって無理やり私に持たせてきた花を、先生に言われて来賓用の玄関に飾っていた時だった。 「カスミソウですか。綺麗ですね」 「...宇佐美(うさみ)先生...」 後ろから声がして振り返ると、整った顔立ちで誰にでも優しくて若くて人気のある宇佐美先生が花を見て優しく微笑んでいた。 宇佐美先生は3年の担当。だから、2年の私とは関わりなんてなくて、話したのもこれが初めてだった。 「これは君が?」 「あ、...はい...。家が...生花店で...」 「そうなんですか。...えっと...」 「...2年の...(たちばな)莉亜(りあ)と言います...」 「莉亜...。可愛い名前ですね」 「っ!」 そう言って微笑んだ先生の顔が凄く綺麗で、私は一瞬で心奪われていた。 「...あ、えっと...私の誕生花がブーゲンビリアっていうお花で...だから莉亜って...」 気付いたら口が動いていた。自分の名前の由来なんて、今はどうでもいいのに...。 それだけ、私の心はかなり動揺していた。 「...ブーゲンビリア...。橘さんは、ブーゲンビリアの花言葉を知っていますか?」 「え、いえ...」 家が生花店ではあるけど、私はそれほど花に興味がなくて、だから花言葉なんて知る由もなかった。 「"あなたは魅力に満ちている"」 真っ直ぐと私を見て言った宇佐美先生にドキッと胸が高鳴った。 まるで私が言われたようなそんな錯覚に陥った。 (...違う。先生はただ花言葉を言っただけ...) 「橘さんにぴったりの素敵な名前ですね」 「...え...あ、ありがとう...ございます...」 人と話すのが苦手で口下手な私。 そのせいであまり人と関わろうとしなかった。 だから初めてだった。 もっと、宇佐美先生と話したい。 もっと、宇佐美先生を知りたい。 愛おしそうにカスミソウを見つめるその瞳で...願わくば私の事を...。 それは、私にとって人生で初めての恋だった。
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