五 四十九番目

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 晴天の朝。山からの土砂で潰された村は家屋も消えていた。そこには倒木と泥水があるだけであった。山の斜面でこれを一望していた彼らは覚悟を決め転がるように下山した。 「酷いな……生き残りはおらぬのか」 「だめだ。村はずれまで土が来ている」 「笙明殿。もしや我らのせいでありましょうか」 「……」  愛馬は被害を免れた笙明は現れた馬を撫でながら感慨にふけっていた。土砂が見舞った村は水を含んだ土と山に植わっていた大量の樹木が流れて着いていた。 「いや。むしろ逆だろう。あの洞穴の水を早く抜かなかったが為、斜面の土が水を含み緩んでおったのだ」  そこに今夜降った雨にて耐えきれなかった土が流れたのであろうと彼は語った。この惨状に彼らは人を捜索をする気を失い、ただ手を合わせるだけだった。 「この村は全滅か。何人の人がいたのかな」 「……おい。この笙明様の符号を見よ」  倒れなかった木戸に掛かっていた札には、四十八戸と書いてあった。 「笙明様!例の猿の言葉」 「……我らは四十九番目の生き残り。これは暗示か。どうやらあれは妖ではないようだな」  災を知らせに来た山神であろうとした一行は泥だらけの体に肩を落としていた。 ◇◇◇  雨が上がった青空の下。村を後にした三名は鶯の声がする小川で手足を洗い、まずは今夜の営の場所を求めて先を進んだ。 「あれ?あの家から煙が出てる!俺、行ってきます」 「待て!あれは」 「はあ……」  見覚えのある家に頭を抱えた笙明であったが、突然鶯の声が止まりあの声が耳元に流れた。 ……五十は置き去り…… 「どういう意味だ?山神よ」  声は空を切るだけで振り向いても誰もいなかった。静かになった古道には鶯の声がまた流れていた。 「……笙明殿?」 「先に参る……」  彼は手綱を引き馬を嘶きさせ疾走した。走る篠を追い越し家の前にやってきた。 「まあ?お忘れ物ですか」 「娘……我と供に来い」  馬上の真剣な笙明を娘は首を傾げて見つめていた。彼はすっと降りると娘の手を握った。 「嫌か」
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