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場の空気を切るような透き通った声に四人は息を飲んだ。
「私に行かせて下さい。どうか、お願い申し上げます」
切なる声の末弟に晴臣は厳しい眼で問い正した。
「……笙明。お主は八田家として参るのだぞ。その責をわかっておるのか」
「はい」
「失態の暁には」
「兄者!それは余りにも酷でございます」
晴臣の棘刺す言葉に弦翠は声を荒げ、紀章も長兄をじっと見た。ここで弦翠は笙明に向かった。
「笙明。やはり我が参る。結界は父上とお前でやれば良い」
「……いいえ。弦兄様。私に行かせて下さい」
「笙明……」
悲痛な面持ちの弦翠と紀章であったが、笙明は清々しく父と三人の兄に顔を見せた。
「御役目賜ります。笙明、八田家の名に恥じぬよう。東道に参ります」
末弟の下げる頭に、長兄は目を見据え、次兄は苦しげに息を吐き、三兄は強く両の拳を握った。この兄弟を前にした父は祈る様に目を瞑っていた。
◇◇◇
八田家は末息子の笙明が陰陽師の力を携えて妖退治に行く事となった。鬼門の決壊で都にも奇怪なるものが溢れる中、若き笙明は城内にやってきた。
「おっと。お前様は」
「我は修験僧の龍牙と申す。そなたは」
「天満宮から参った八田笙明だ。以後。お見知り置きを」
神主の装束の笙明は修験僧の大男を見上げていたが、誰かがツンと笙明の白い袖を引っ張った。
「あのさ。おじさん達、怪異退治?」
「ああ。坊主。便所はここじゃ無いし、俺はおじさんじゃ無いぞ」
「そうですか?俺は鞍馬山からきた篠と言います。これは書です」
袈裟姿の少年の文には、彼が天狗の祖に推挙された内容になっていたが、笙明は首を捻っていた。
「大丈夫か?お前、山の中とか歩くのだぞ」
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