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幼い顔の篠に、笙明は眉を潜めたが、龍牙がそっと呟いた。
「八田殿。こやつの寺は山の上ですぞ」
「そうだよ。おじさんこそ大丈夫?」
「ハハハ。これは楽しみだ?」
妖退治の任務の三人は、顔を神妙し、右大臣が待つ間に向かった。
「よく参った。この書によれば、陰陽師の八田笙明。修験僧の龍牙。天狗の篠か。必ずや倒してくれるであろうな?」
「必ずとは申せませぬ」
「行って見ないとわしもわかりませぬな」
「俺できますよ」
「真か?」
「……しばし。待たれよ」
笙明は部屋に飾られている壺を睨んでいた。
「右大臣様。あの壺は」
「あれか?帝が気に入っておいでだが」
「何かあったのか、笙明殿」
「龍牙殿……あれはここに飾るものではござらん」
「どれ?我が見るか」
龍牙は数珠を手にこの壺に歩み寄った。壺はカタカタと小刻みに横に動き出した。これを見た篠は念仏を唱えた。
「笙明殿よ。この壺は何か言いたいことがあるようだ」
「さもあらん。これは骨を入れる南洋の壺だ」
「え」
驚く右大臣が見る中、笙明はすっと立ち上がった。
「……冥界の異物、害を成すものめ……ここはお前のいる場所ではない……立ち去れ……往ね!」
穏やかだった笙明の面から想像できない程、冷たく恐ろしい呪いの言葉は、手に触れずして壺を握りつぶした様に砕いた。
「なんと?これは一体」
慄く右大臣を前に笙明は何食わぬ顔で説明をした。
「これは悪意の塊。こんな物を置くとは?目利き以前の問題だ……」
「大方、帝に反する者の贈り物だな」
「それ。庭に埋めないで河原に捨てた方がいいですよ」
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