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月だけがいる深夜。笙明はそっと刀を持つと奥の部屋に入っていった。そのふすまの奥からは灯りがほんのり溢れていた。
……ギイ、ギイ、ギイ……
バタンバタンと布を織る音がしていた。彼はそっと襖を開けて中を見た。
……やはり、物の怪か。
狭い小屋の中。鷺が白い身体を伸ばし、自らの羽を抜き、布を織っていた。
これに息を飲んだ笙明であったが、よく見ると織っているのは娘が見せた純白の反物であった。これで確信を得た彼は勢い良く戸を開けた。
「でたな。魔物め!」
彼が刀を抜くと、鷺は大慌てて部屋から飛び出していった。
「待て!おい!待て」
追う笙明であったが、庭に出た鷺はバタバタと羽ばたき、月夜の空に飛んで行ってしまった。この騒ぎに龍牙と篠も駆けつけた。
「いかがした?なんだ……これは」
「羽がこんなに落ちてる……あ、血だ」
「何?血だと」
床には白い羽が足場が無いほど散っていた。篠が見つけた羽の根元はうっすらと血が滲んでいた。彼らはこの騒ぎの中、現れない娘を探した。
「お姉さーん!どこですかー」
「……笙明殿!来てください」
「いかがした?これは……」
奥の座敷の布団の中には、大きな鷺が一羽死んでいた。死後、時間が経ていたようでその身は固く冷たかった。
「この鳥、変だよ。ほとんど羽が抜けてるよ」
「ああ。痛々しいほどだな……歳を取っているようですな笙明殿」
「……娘はどこだ。探すのだ」
妖隊の三人は朝を待たずに周囲を捜索に出掛けた。
「あ?あそこに白いものが」
「どこに?」
「どけ!」
白白と夜明けの空の下。篠の声に笙明が草を分けた。その背後に龍牙が立った。
「これは……あの娘ではないか?」
「なんと……」
小川の水場の草むらで娘は気を失い倒れていた。これを見た笙明は慌てて冷たい身体の娘を抱き上げ家に連れ帰った。
「死なすものか……御免」
笙明は彼女の濡れた着物を脱がし裸にすると自分が寝ていた布団に入れた。
そして髪を拭く笙明の様子を見た龍牙は指示を出した。
「篠、その囲炉裏に火を入れろ!わしは湯を沸かす。あ。笙明殿、何を」
「これしか無いだろう……」
笙明は衣服を脱ぎ自ら裸となり、娘の床に入った。そして娘を優しく包んでいた。篠はその間必死に火を起こし、部屋を温めた。
「……冷えておるが……まだ息はあるぞ」
「笙明殿……」
こうして娘を温める笙明を龍牙は黙って見守っていた。まだ早春の朝は寒かったが、日が昇るにつれ娘の体も暖かくなってきた。
必死の手当ての中。笙明も昨夜の疲れで眠ってしまい、暖かい部屋に龍牙も篠もうたた寝をしていた。
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