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「……もし。あの」
「ん?起きたか……」
目を覚ました娘は、裸で自分を抱いている男を見つめていた。それはどこか冷酷な目の男であったが、抱きしめている香りと腕は確かに優しかった。初めて見る父以外の男性は、逞しくそして優しかった。しかし自分も裸であったので途端に恥ずかしくなった。
「こ、これは……あの、私は」
真っ赤な顔で恥ずかしがっている娘であったが笙明はまっすぐ白い娘を見つめた。
「お前は……覚えてないのか」
「貴方様の事はおぼえています。昨夜、粥を褒めてくださったから」
「……まあ、良い」
柔らかい彼女を優しく抱くのをやめた彼は、床を出た。そして彼女に背を向けて着物を着た。そして娘にも着物を渡し、袖を通すまで目を覚ました龍牙と篠と後ろを向いていた。
「お前はどこまで覚えているのだ」
「……昨夜、母に相談して、お粥を作って」
「お前の母とは、あの床の鷺か」
「鷺?そ、それは一体」
「来い」
笙明は娘の手を取り、奥の部屋に入った。
「よいか。お前の母様はこれか」
そういって布団をめくった笙明に、娘は驚きの顔を見せた。
「え?これは……では、母はどこに」
「母様はここで寝ていたんだな?そして機織をしておったんだな」
「はい」
嘘のない顔に、龍牙は鷺の布団をそっと掛け直した。こんな彼らに娘は話をし出した。娘の父は流行病で亡くなり、母がずっと機織で自分を育ててくれたというものだった。
「村の人は皆死んでしまいましたが、母と私だけは病にならず、ここで暮らしていたんです」
「お前は、織物は」
「しません?母がすると言い張って……あれ?でも」
思い出しそうに頭を抱える娘に龍牙が自分達は妖退治に来たと話した。
「もしやお前も妖かも知れん」
「私が?いいえ。私はここで暮らしていただけで」
「娘、私の目を見よ……」
笙明はじっと娘を見た。すると白い娘はだんだんと息が荒くなってきた。
これを見た篠は優しく娘を床に座らせた。そして笙明は静かな声で彼女に問い出した。
「娘よ……お主は何者だ……」
「私は、私は……」
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