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気を取り直した鷺娘はこれからは一人でこの地にてひっそりと暮らすと彼らに話した。
◇◇◇
翌朝。妖隊の三人は娘が用意してくれた朝餉を食べながら予定を話し出した。
「お姉さん。でもここで一人だなんて。誰もいない村では寂しいでしょう」
「でも。他に行く所がないもの」
「篠……良いから食べろ。我らは行くぞ」
笙明はそう切り捨てるように話し食を終えると身支度をし始めた。朝の日が眩しい春の日。篠は思わず笙明の肩を揺すった。
「良いのですか?一人ぼっちにして」
「そうです!笙明殿。聞けば母を亡くしたのは最近だとか」
「見よ。この玉を……」
笙明は鷺の母の布団にあった石を二人に見せた。
「これは?」
「これは妖の塊だ」
妖隊は奇怪なる妖を倒した際に妖の塊なるものが出ると聞いていた。しかし話では塊は邪悪なものに包まれていると聞いていた。
「私はこれには何ら力を感じない……恐らく鷺の母はただ人に化けただけだろうな、まるで呪詛を感じないのだ」
「では娘御も魔物ではないという事だな」
「ねえ、笙明様!一緒に連れて行ってあげようよ。せめて他の人がいる村まで」
支度を進める笙明は出来ぬと篠に諭した。
「本人がそうしたいと言っておるのだ。さあ、行くぞ」
「「……」」
冷たい笙明であったが娘はひたすら彼らの用意をしていた。
「これ。食べてね」
「いいのかい?おにぎりもらって」
「うん。私だけならそんなに要らないし」
健気な娘に篠は心揺れていたが、彼女は気にせず彼らに精一杯の食べ物を持たせた。篠がこれを受け取ると娘は笑顔を見せた。
「そうだわ?ここからこの道を進むと川があるけど橋はないのよ。だから小舟で行くか。浅瀬を探して渡るのよ?浅瀬の場所はね……」
篠に優しく旅の安全を説明する娘は、最後に笙明と龍牙に礼を言って道まで見送りをした。
「道中、お気をつけて」
「娘御、気をしっかりな」
「お姉さん!あの、悪い人に騙されないようにね」
「参るぞ……」
こうして娘を背にして三人は歩き始めた。
「いいの?本当に」
「ああ……気の良い娘なので騙されないか不安だ」
「……」
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