五 四十九番目

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「いいえ……そうではありません」 「ではなぜだ」 「私は鷺の娘……旦那様に迷惑をかけてしまいます」  目に涙を溜め自分を見つめる澪を見た彼は、彼女が寂しさを我慢していた事を知り胸を熱くした。思いが募った彼は気がつくと澪を抱きしめていた。 「済まぬ……もう泣くな」 「……でも良いのでしょうか。私が一緒に行っても」 「ああ」  彼は彼女の光る涙を拭うと、頭を抱え頬寄せた。そしてため息のように娘に命じた。 「私が来いと申しておるのだ。はいと答えよ」 「……はい」 「良し。お前は私のものだ……娘」 「はい。旦那様」  素直な娘の潤んだ目に笙明は恥ずかしそうに彼女の名を尋ねた。 「澪と申します」 「そうか。澪か」  二人が抱き合う中、ようやく篠がやってきた。 「やっぱり!ここはお姉さんの家……あ、どうして二人が」 「はあ、はあ、走るのは堪える。あ。娘御」  恥ずかしそうに頬染める二人に肩透かしの篠と龍牙に、笙明はすまし顔で向き、彼女の肩を抱いた。 「二人とも。澪も旅に参る事になった」 「はい。よろしくお願いします」  菜の花に集う蝶々が無邪気に飛び交う春の野辺の家。優しい風の中、頬を染めた笙明は心晴れ晴れに西に沈む夕日を遠く望んでいたのだった。 第五完 第六へ <2020・5・4>
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