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一 月夜に老狸を討つ
「しかし、東道とはな」
「……龍牙は先ほどからそればかり。もう聞き飽きたよ」
「……」
都を出た妖隊一行は東の道をひたすら進んでいた。旅路の狩衣姿の八田笙明は馬に乗り、大柄な龍牙と少年の篠は歩いて進んでいた。春の田舎道は草の香りがしていた。
「なあ、今夜の宿は?俺、疲れた」
「この先の神社だ。いいから歩け」
「……」
「ねえ、笙明様。何か言ってよ。先から黙ってさ」
口が止まらない篠に彼は澄まし顔で篠を馬上から見下ろした。
「篠よ……あそこの田に人がいる。話を聞いて来い」
「はあ?俺ですか」
「そうだ。怪異や化け物が出ないか聞いて来い」
篠は走って行ったが特にないと返事をもらい戻ってきた。このような調子で道を歩きながら妖を探している旅の一行達は何の情報もないまま今夜の宿である古びた神社に着いた。
「おお?妖隊でございますか?どうぞ、こちらへ」
帝自らの結成隊の活動を各地の神社や寺は支援をしており、妖隊はこれらを拠点としていた。この日、笙明達は東山道の国境にある神社に泊まることにした。
古い建物であったが老神主は花を植え社を美しく整備していた。これらを愛でながら三人は一息ついていた。
「はあ、しかし。妖ってその辺にいるもんじゃないんですね」
「ああ。わしも退治できるが、こう、探すハメになるとは」
「そうだな。村人の話だけではな」
旅の疲れた足を伸ばす三人に対し古社の神主は以前駐屯した他の妖隊の話をした。
「皆様。滅する御力はあるようですが、どうも妖を探すのが難儀のようですな」
彼らは村人を雇い探させたり、犬を放って探す妖隊もいると言い神主は茶を出した。他の妖隊の話を聞いた事が無かった三人は、策を練った。
「占いでございますか」
「ああ。しかし。それには少々必要なるものがある」
笙明は占いで妖の居場所を見立てると言った。
「闇雲に探すよりも良いかもな」
「ねえ、笙明様。それには何がいるの」
「そうだな」
笙明は水、生贄、土が欲しいと言った。
「水や土は良いとして、生贄って?」
「わしは嫌ですぞ」
「静かに聞け」
彼は占いをする道具を紫の包みから広げた。初めて見る陰陽師の占い道具に二人は頭を付け覗き込んでいた。
「良いか。この盤はこの世を示しているのだ」
彼の手法はこの盤上に、この村を小さく再現すると言う物であった。
「故に水も土もこの地の汚れのない物が欲しい。恐らくここの神社の物が清く相応しいだろう。そして生贄は」
「わしは嫌ですぞ」
「俺だって嫌だよ」
「静かにせよと申しただろう!」
呆れた笙明は蛙や土竜が良いと言った。
「雀も良いぞ。大きいのは不要だ」
「蛇は」
「わしが嫌じゃ?よし篠。早速明日参ろう」
春の寒い翌朝。三人は占いの支度を進めた。
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