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社で支度をすると言う笙明を残し、龍牙と篠は生贄を取りに村に顔を出した。近くを流れていた雪解けの清い小川で蛙を捕まえた篠と龍牙は神社へ引き返そうとしていた。菜の花の道を材木を牛で引いた村人がやってきたので二人は挨拶をした。
「あんた達も妖退治か」
「ああ」
「ここにはそんなに俺達の仲間が来たの?」
そうだ、と百姓は言った。
「神主さんの話では、皆、妖を倒したので都に戻った話だ……。しかしそんなにたくさん化け物がいるとは思えないんだがな」
「ふーん」
「そうですか。では我々はこれで」
帰ってきた二人は笙明に生贄を渡した。笙明は自分で用意した水と土と、この生贄を用い、占いを始めた。
「これは……やはり」
「どうしたの」
「その生贄では足りんのか」
「今、読んでいる……そうか、やはり」
笙明は三人に結果を耳打ちした。篠はこれに驚いたが、龍牙は予感がしたと言い納得した。
占いの結果を見た三名は旅の道具の手入れをした後、神主が出してくれた夕餉を囲んでいた。
「そうですか。やはり怪異はいませんか」
困り顔の三人に神主は親切に食事を進めた。
「……はい。しかし明日は出立致します」
「いつまでも厄介になるわけには参らぬし」
「俺も先に進みたい……ふわ!眠くなっちゃった……」
欠伸をする篠に目を細めた神主は、まだあどけない少年に早く休むように優しく言った。
「……そうですか、今夜はどうぞごゆっくり」
食後。三人は囲炉裏を囲んで眠る事にした。旅の緊張が抜けた彼らは春の静けさに心地よく寝入っていた。
◇◇◇
深夜。暗い部屋に光る眼が三人に近づいてきた。三人はただ静かに寝息を立てていた。
「……小さいのは柔らかい、大きいのは硬そうだ……」
ぶつぶつ話すその者は寝顔を見比べていた。
「……若いのは肉がない……さて、どうしたものかの……」
「ふわ?あああ……」
この時。寝ていた篠は眠そうに目を擦りながら寝言を言った。
「寒い、寒い……」
「おお?これはこれは」
この者は篠の掛衣を直そうとしたがその顔からは髭が伸び、尾が背後から生えていた。これに篠は気がついた。
「……神主様?ど、どうしたの」
「あ。いや、寝ていなされ」
「篠……こちらへ来い」
彼の背後の者達がさっと起き上がった。
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