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「この妖め!」
「篠!避けろ」
笙明はすでに消えていた火を灯台を足蹴にした。これを避けようとした神主は慌てて囲炉裏の炭に足を入れた。
「ぎゃああああ。熱い、熱い!」
囲炉裏の残り火を踏んでしまった妖は、その熱さに暴れていた。この間に篠は部屋の隅に逃げ込んでいた。
「笙明様。俺はここにいる!」
「よし行け!龍牙」
「わしか?」
龍牙は太刀にて囲炉裏ごと妖をバッサリと斬った。
「ぎゃ!?……あああああ……」
恐ろしい断末魔を挙げさせ、部屋の家具をひっくり返した龍牙だったが、やがて静まり返った。笙明はゆっくりと灯りをかざし、部屋を確認した。
「ねえ。笙明様。これは。狸ですか」
「ああ。ずいぶん歳を取っているな」
血だらけであるがまだ息のあった狸は、毛が抜けており歯も欠けていた。この狸は息も絶え絶えに笙明に口を開いた。
「悔しや……なぜに見抜いた」
「匂いだ」
笙明は初めから匂いを感じていたと話した。
「そんなはずはない……」
「ああ。お前は獣の匂いを消そうして、花の匂いをつけていただろう」
笙明の話に篠もうなづき口を開いた。
「この妖め!神主のお前から花の匂いなんておかしいだろう、おい?」
篠の話が終わら無いうちに狸は事切れた。
「しかし。神主のおじさんが狸とはね」
「なかなか尻尾を見せぬので参ったな」
「……全く。騙されるのも骨が折れる事よ」
妖を始末した春の夜明けの居に背を向けた笙明はそっと外を見ていた。白白と朝日が登る様子に彼は目を細めていたのだった。
◇◇◇
朝日の中。三人は仕留めた大古狸を庭に埋めようと屋内から引き摺り出してきた。
「重い……」
「笙明殿も……持っておりますな?」
「ああ……良し。ここで良い。しかし、太っておるな」
すると狸の口からコロンと石が出てきた。これを篠が受け止めた。
「これが妖の塊か?しかし、う?臭い!?」
「祓うのでそこにおけ」
赤々と燃えるような石であったが笙明が唱え祓いを済ませた。土に狸を埋めた彼らはこの神社の内部を確認した。神主が出入りしていた奥の部屋から本物であろう神主の死体と、狸の寝床を見つけた。人の髪の毛や歯などがあり篠は身震いした。
「怖」
「……東の國に行った妖隊は、案外此奴のせいで行方知らずかもな」
「ここで命潰えるとは。無念であろうな」
笙明の低い声に龍牙は数珠を振るい篠は経を唱えた。そしてこれを見た笙明は邪気を払ったのだった。
「まあ。これで一つか」
「しかし。妖を退治するよりも、探すのが大変だなー」
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