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「苧環、おまえは賢い。とぼけるのもいい加減にしろ。」
「・・・はて。私はただの遊女ですもの。女将さん、元高尾太夫に将来の太夫候補として教育はさせていただいてはおりますけど。萩野宮さまのお気持ちを察することができるほどの頭はございませんわ。」
萩野宮さまはかっと顔を赤くする。怒ってるようだ。逆に私は冷静に表情を変えることなく萩野宮さまのお顔をじっと見ている。
馬鹿なのかしら、いいところに生きているお方たちは。私じゃなくてもここの禿の幼い子供たちだってあなたの気持ちは気づいてる。気づいていて私は見ないようにしている。ただ、それだけよ。
「金も見た目も良い、非の打ちどころのない純粋な女子との縁談を断ってきたんだぞ私は、おまえのために!」
「・・・。」
「おまえは金がないし、いい家柄でもない。正直、おまえのことについて知らないことのほうが多い。見合いした女子と結婚した方がいいのは分かってる。けど、いつだっておまえの艶やかな姿が、顔が忘れられない。」
そう言って、萩野宮さまは私の着物の胸元に手を掛けた。私はその手をすぐさま掴む。
ああ、さっきここでは酒を頼ませてなんぼとは言ったが本当に金だけを積ませるにはこの客と床に着くのが最も簡単だ。
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