苧環が咲き誇れば

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あと、萩野宮さま。私は別に甘えてなんかいないわ。 「今日も、おまえはいい香りがするのう。」 そうでしょう?あなたのためにね、こうなることも踏まえていつもあなたの好きなお香を焚いて私の体にも着物にも香りを染みつかせているのだから。 「私はね、萩野宮さまに負担を掛けさせたくないの。ここに私がいればいるほど、私を見受けする時の値段が吊り上がっていく。私のせいで、萩野宮さまのお店を傾かせたら私、生きていられないわ!」 私の気持ちはともかくとして、私の存在に値段が上がっていくのは本当だ。着物に化粧代、食事代、住居代・・・あと私についている禿の教育にもお金がかかる。それは本当に一般人は死ぬまで働いても払えない金だ。それにいくら大きな店を持つ萩野宮様でも店を傾かせる要因の一つには絶対なる。 傾城・・・私たち、遊女はそう呼ばれている。なぜなら城を傾かせるくらいの金を私たちを見請けするってなるとかかるから。 「おまえが気にすることはないよ。」 萩野宮さまはまるで夫にでもなったかのように優しく私に言う。私はしおらしく萩野宮さまの腕の中にすっぽり入り込む。 「この萩野宮さまのお傍に居られる清らかな時間ほど、尊いものはございません。ねえ、本当に結婚が一番深い契りなのでしょうか?体を重ねない清らかな愛を紡ぎ合うこの関係が最も美しい、私はそう思うのです。この遊郭の世界に生きてきた以上、そんな夢、あなたといるときぐらい見てもいいでしょう?」
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