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1.パラサイト
2020 年4月。
世界中で猛威を奮うCOVID-19こと、新型コロナウィルスを制御できないまま、日本はGWに突入しようとしていた。
しかし、大型パチンコチェーン『ドル箱大将』は連日大勢の客で賑わっていた。
休業の店が多いため、一店舗にパチンカーが殺到し、まさに芋洗い状態だ。
日暮玉男は、海物語のリーチをはずすと、げんこつを台に叩きつけた。
アベノマスクを顎の下にずらし、電子タバコをふかしていると、隣の中年男性が「惜しかったですね」と、話しかけてきた。
「釘渋いっすよねー」と日暮。
「まぁ、ほっといてもお客さん来るから、店も釘開ける必要もないですしね」
隣の男がため息まじりに、店内を見渡す。
たしかに空き台が無いわりに、通路のドル箱はまばらだ。
「あーあ、ただでさえ金無えのに、チッ……」
「いやぁ、私も金欠なのに、あわよくばって久しぶりに打ちに来たら、全然です……」
男は先日までタクシーの運転手をしていたが、コロナによる不景気で解雇になったという。
「そーなんすか……大変すねそれは……じつはオレも、派遣切りにあって」
「ああ、それは……お互い当たると良いですね」
「そっすね。もうちょい粘ります」
日暮は台のサンド(お金を入れる玉貸器)に万札を突っ込み、ふたたび打ち始めた。
日暮は隣の男に話を合わせたが、嘘をついていた。派遣切りなんてのは全くのデタラメで、そもそも何年も、まともに職について無い。
隣の男はリーマンショックの余波で、タクシーの運転手に転職したが、コロナ不況で先週クビになり、このご時世にとの後ろめたさを抱きつつ、しかしストレス発散で、フラッと立ち寄ったのだ。
一方の日暮は、もうすぐ四十路だが、母の年金をあてにしたパラサイト生活を、だらだらと何年も続けていた。
あまり口うるさくない母から「玉男、そろそろ、仕事したら?」と遠慮がちに諭され、渋々ハローワークに行きだした矢先にコロナ騒動が勃発し、不謹慎なことにラッキーと思うような男だ。職が見つからない、これ以上の言い訳がないからだ。
そんな自分に、鼻毛ほどは後ろめたさがあるのと、生来の見栄っ張りな性格で、口から出まかせを言っただけだ。
この日は開店から並んで、昼過ぎまでに四万円突っ込んで、結果はマイナス三万六千円だった。
パチンコ屋の対面の立ち食い蕎麦屋で、かけそばをすすりながら、「次は六月か……」と、母親の年金支給日に頭を巡らせていた。
—— 年金は偶数月の十五日だから、あと二ヶ月……まいったなぁ……あ、ただ、給付金十万が入る! おふくろの分と合わせりゃ二十万……
なんとかなるか!
不安が解消し、気を良くした日暮は、コロッケとおにぎりを追加した。
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