3.SLP

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   五日後にGWを控えた四月二十日の夕方。  まもなくテレビで、東京都の緊急会見が始まる。会見場には続々と、記者が集まっていた。  会見に無関心な日暮は、母の手料理をつつきながらスマホゲームに興じていた。 「なんか、味薄くね?」と文句を言っていたが、テレビから聞こえた「パチンコ店」という言葉に反応し、目線をテレビに移した。  バシャバシャとフラッシュが照らすなか、都知事の会見がスタートした。 「今年のGWはステイホーム週間です。おうちにいましょう、いてください」  都知事は続けて、行楽地や行楽施設への自粛要請に話を移し、「ここからは、知事会を代表して私から新施策を発表します」と前置きした。 「要請に応じていただけないパチンコ店などは、未だにあります。自治体としては強制できないため、これは致し方無い」 「そこで、こうした施設の利用を控えていただいた皆様に、自粛ポイントをプレゼントすることに致しました。セーブライフポイント、SLPと覚えてください」 —— 自粛ポイント? なんだそれ…… 箸を止め、耳を傾ける。 「たとえばパチンコ店ならば、一日我慢していただければ、ドル箱を一箱プレゼントします」  会見場がざわつき、大量のフラッシュに都知事の顔が白く飛ぶ。  日暮が前のめりになり、固唾を飲む。 「知事会で予算を出し合い、自粛ポイント専用のアプリを作りました。アプリのGPSをONにしていただき、外出の際も携帯してください。家にいればいるほど、ポイントが貯まります」  ここまで聞いて日暮は、慌ててリモコンの録画ボタンを押す。なにか得な匂いを感じたからだ。 「四月二十五日から五月六日までの期間、パチンコなら一日ドル箱一箱。観光なら宿泊ポイントや旅券ポイントが貯まります。詳細はこのあと二十時に、都道府県のホームページで発表します」  都知事の発表が終わり、記者からの質疑に入るや、財源について質問が集中した。 財源は税金で、一時的に知事会が立て替え、まとめて国に請求する考えだ。反対意見を述べる記者も多数いたが、「この十二日間が命運を分けます。多くの命を守り、医療崩壊を防ぐ費用としてお考えいただければと存じます」と、都知事は毅然と言ってのけた。
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