5.感動

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5.感動

 深夜一時から都知事が、異例の会見を開いた。 「お陰様でこの十二日間、みなさまの接触は九割抑えることが出来ました。その結果、本日正午までの感染者数は、東京で一日平均五十二名、大阪で三十名と右肩下りに減少しました。みなさまにお礼申し上げます」  感染者が減ったことで、医療現場では重症者の対応に専念ができて、医療崩壊も、すんでで回避した。まさに日本は、危機を乗り越えたのだ。  都知事がマスクを下げて、目に涙を溜め「国民のみなさま、ありがとう」と、あらためてお礼を告げると、会見場は大きな拍手に包まれた。  ちなみに、都知事の陰に隠れ、すっかり存在感が薄くなった首相は、自宅でテレビを観ながら、アベノマスクを口の端に咥え、ギリギリと歯噛みしていたらしいと、後日文春が報じた。  日暮の傍らでは老齢の母も涙ぐみ、「小池さんもがんばった!」と、笑顔で拍手をしている。  日暮も感動していた。都知事の涙にではなく、ドル箱十二箱を達成したからだ。一箱五千円として、六万円分の出玉を手にした状態で、打ちに行ける。打たずに換金しても良いのだが、ギャンブル中毒者はそんな無粋(ぶすい)な真似はしない。引きが良ければ、六万を十二万に出来ると、誰もが信じて疑わないからだ。  明日から、飲食店やパチンコ店など、自粛要請の業種に対しては、徐々に規制が緩和される。  日暮は開店の日を心待ちにして、眠りについた。
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