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思いがけない出来事。
ジリリーン、ジリリーン。
「うーん。」
目覚まし時計を止め、起きあがる。
(なんか、久しぶりに、じいじの夢見たな。)
窓を開け、背伸びをする。
(あっ、そっか、もうこの時期なんだなぁー)
窓の外には、母が育てた、チューリップの花が花壇に咲き、庭には、椿の花が赤く綺麗に咲いてる。
「美穂、おはよう。早く支度しないと、会社遅れるよ。」
花壇で水やりをしてた、母と目が合ってしまった。
「はーい。」
窓を閉め、机の上の写真に目をやり、
「じいじ、おはよう。」と話しかけた。
その写真は、お笑い界の帝王と呼ばれてた、河村じゅんさんが、私の町にロケに来た時の写真で、高校生だった私は、夏休みで、じいじの家に泊まりに来てて、同じお酒好きという事ですっかり意気投合しちゃって、私は、恥ずかしくて、隠れてたけど、最後に、じいじが、今度一緒に飲もうっと約束のしるしに撮った写真。恥ずかしがる私を無理矢理誘って撮った写真は、真ん中に河村さんで右に私、左には、お酒で、顔が真っ赤で陽気になったじいじの姿が写ってる。
(にしても、じいじは、いくつ約束破れば気がすむのか、針千本では、すまないぞ)
そんな昔の事を思いだしながら、着替えていると、ふっと、時計を見ると。
「やばい、会社遅刻する。」
私は、慌てて階段をものすごい勢いで降りる。
「美穂、また朝からドタバタと年頃の娘がする事じゃないぞ。」
父の厳しい声からダイイニングから聞こえた。
「美穂、何してたの?早く支度しなさいって、言ったでしょう」
母は、美穂の弁当を詰めながら言う。
「うん、なんか今日夢でじいじの夢を見て色々思い出しちゃって。」
「あっ、そういえば、この時期だったよね、じいじが亡くなったのって、急だったとはいえ、もう1周忌も過ぎたんだから、美穂も、切り替えないとね」
「うん、分かってるよ。」
「美穂は、おじいちゃんっ子だったからな。」
(誰のせいだと思ってるんだから。)
父を横で睨みながら思う。
「いただきます。」
朝、ごく当たり前のように家族が食事をする。こんな光景は、子供の頃は少なかった気がする。
「じゃあ、行ってくるよ。」
父が先に弁当を持って出て行く。
「いってらっしゃい。お父さん。」
私もご飯をかきこみ、母が作った弁当に手を伸ばすと父が。
「美穂、運転気を付けて行くんだよ。」
「うん、わかってるよ、いってらっしゃい。」
私が嫌そうに返事をすると、父は、何も言わず、ドアを閉めた。
「じゃあ、私も行くね、お母さん。」
「美穂、本当に運転気をつけなさいよ、まだ免許とりたてなんだから。」
「わかってるって、行ってきます。」
「いってらっしゃい。美穂。」
私、佐川美穂24才、茨城県に住む、父と母の3人家族、ごく普通の平凡な家庭で育つ、多少幼少な頃は、父と母は不仲な事もあったが、今は、毎朝こんな光景が、繰り広げられている。大手ホームセンターに勤務している私は、やっと取れた免許で毎朝通勤している。
そう誰がきっと待っている 伝えくて待っている
こんな平凡な私がこれから運命的な出逢いをして
どこまでも続いてゆく道で
人生が180℃変わるような出来事が起こるとは、思いもせず、
いつものようにラジオ聴きながら勤務先へと向かう。
夜19時過ぎには、仕事も終わり家と帰る。
「ただいま」
「お帰り、美穂、美穂宛の郵便物届いてるよ。」
母がダイイニングテーブルを指す。そこには、私宛の茶色封筒が置かれてた。
「ありがとう。着替えて来るね。」
封筒を見ながら2階へと上がる。
しばらくして、凄い勢いで降りて来た。
「ちょっと、美穂、またお父さんに怒られるわよ!!」
「お、お、お母さん大変!!」
「どうしたの?美穂」
「当たったの!!」
「何が?」
「河村じゅんさんの番組「どうぶつ学園」の観覧チケットが。」
「あら、本当に?」
「それも、生放送のチケットだよ。」
「良かったわね、美穂、じいじと行きたいって何回も応募してたもんね。」
「そうなのよ、なのに肝心のじいじが他界した時に当たるなんて。」
「ねぇ、お母さん一緒に行ける?これ2名様で来て下さいって書いてあるのよね。」
「いつ?」
「来週の土曜日。」
「あー、行きたいけど、だってスカイハイの戸葉圭介君がアシスタントしてるんでしょう、可愛いよね、彼ダンスも歌も上手で。」
「お母さん、いつからスカイハイのファンになったの?」
「最近よ、だって彼ら昼の番組の芸能ニュースには、出てるし、CMにも出てるし、気づいたら夢中になっちゃって。」
嬉しそうに話す母は乙女になっていた。
「じゃあ、一緒に行こうよ。」
「その日ね、お父さんにデート誘われちゃって、久しぶりだし行こうかなって思ってね。」
(母よ父よいつからそんなにラブラブになった)
少々呆れた顔でお母さんを見て
「じゃあ、どうぞお父さんと仲よくデートしてきて下さい。」
「うん。美穂遅くなるなら、夕飯も外で食べて来ちゃうかな。」
「はいはい、どうぞお好きに。」
「美穂、ご飯冷めるから食べちゃってね、私お父さんの湯加減見てくるから。」
「いただきます。」
(さて、どうしようかな?誰誘うかな?私の周りには、河村じゅんさんのファンは居ないし、スカイハイのファンなら、職場には居たような。あっ、でも本多さんは駄目だわ、戸葉君大好きすぎて、番組壊したら大変だし。)
「うーん。もぐもぐ。」
(あっ、居たそういえば、里穂アイドル好きだった。よし、ご飯食べたら電話しよう)
「ごちそうさま。」
さて、茶碗洗ったら、部屋に戻ろう。
2階上がろうとした時、父がお風呂から出て来た。
「美穂、お帰り。」
「ただいま。」
そっけなく返事をして、2階に上がる。
2階に上がると、さっさく里穂に電話をかける。
里穂こと田村里穂は、小中高一緒のくされ縁みたいな友達、お互い高校卒業してからは、それぞれの道を行ったが変わらず連絡は、取り合っていたが、1ヶ月前に電話した後は、忙しいみたいでメールのやりとりしかしてない。
「はい、もしもし美穂?」
久しぶりに聞く里穂の声は、なんかおかしい。
「うん、どうしたの?声おかしくない?」
「うん、この間メールで話したけど、大きな企画任されちゃって、張り切って仕事してたら、風邪ひいたのか、喉が痛い。」
「大丈夫?里穂、これでは無理かな里穂も。」
「何が?」
「実は、さっき帰って来たら、「どうぶつ学園」の生放送の観覧チケット当たったんだけど。」
「えっ、本当に。」
さっきまで暗かった里穂の声のテンションが上がった。
「うん。本当は、じいじと行きたくて、ずっと応募してたのに、肝心のじいじは他界するし、お母さんは、その日お父さんとデートだって言うし。」
「ねぇ、美穂の両親いつからそんなに仲良くなったの?」
「さあ、なんか気持ち悪い位、最近仲良しだよ。」
「気持ち悪いってそれは言い過ぎだと思うけど、それで、私に電話したんだ。」
最初の電話の声より明るい声になって、私としゃべる。
「うん、里穂、河村さんのファンでは無いけど、アシスタントやってるのがスカイハイの戸葉君でしょう?里穂アイドル好きだから、どうかなって思って。」
「アシスタントじゃなくて、生徒会長!!あの制服姿が本当に良いのよ。毎週欠かさず観てるもの。」
(それって、番組を観てるんじゃなく、戸葉君を見てるって事だよね。)
「でも、里穂風邪っぽいなら、無理しない方が良いよね、大事な企画控えてるし。」
「いーえ、風邪なんて、すぐに治して、生戸葉君見れば企画も頑張れるよ。」
どうゆう理屈だ?って首をかしげながら、
「じゃあ、行くのね。」
「もちろん、来週土曜日だよね、先週、生放送だって言ってたから。」
(さすが観てる人は、すぐに分かる、私も見たいけど、その時間仕事だからなかなか見れないんだよね。)
「じゃあ、駅で待ち合わせして、電車で東京行って、テレビ局までバスか徒歩で行けば良いよね。」
「そうだね、何時テレビ局集合になってるの?」
「たしか、18時半までに来るように書いてある。」
「じゃあ、それまでの時間は、その辺りぶらぶら出来るね、久しぶりの東京だから楽しみだよ。」
「私も久しぶりの東京だし、河村さんを間近で見れるのを楽しみだよ。」
「ちょっと美穂、若者が河村さんに会うのが楽しみって、前から思ってたけど、やっぱり年上キラーなの?」
「ちーがう、じいじが好きだったから、好きなだけだよ。」
「あっ、間違えた、美穂は、じいじキラーだったんだ。」
「ひどいー、里穂」
「わはは、ごほごほ。」
「ちょっと、里穂本当に大丈夫なの?」
「平気、平気、来週の土曜日まで、ちゃちゃっと治して、生戸葉君に会いに行きますよ。」
「うん、無理しないでよ。」
「オーケー、じゃあ、来週の土曜日夕方駅で待ち合わせね。」
「うん。」
「じゃあ、私明日又朝早いから、休むね。」
「うん、ありがとうね、里穂。」
「いえいえこちらこそ、美穂が誘ってくれて、元気になったよ。」
(やっぱり元気無かったんだな里穂)
「当日、またいっぱいお話しようね、里穂。」
「うん。楽しみにしてるね。おやすみ美穂。」
電話を切った後、少し不安があった、本当に里穂大丈夫かな?まっ、親友を信じるしかないか。
「さて、私もお風呂入って休もう。」
まさか、当日本当に不安が当たってしまうなんて、思いもせず、少し浮き足だってたので、ゆっくり階段を下りた。
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