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「お母さん。早く行こう」 「譜和。待って……。よし、荷物おっけい。譜和、お花持った?」 「うん」  お母さんは両手に入院に必要な荷物を持ちながら、譜和に聞いた。譜和は三ヶ月分の小遣いを貯めて、買った花の入ったバスケットを掲げる。  お父さんは菫の花が好きだから、お母さはお父さんのお見舞いに行くときは、いつも菫の花を送っていた。  でも、譜和が用意したのは菫の花の他にも別の花を用意した。花屋さんに相談した時、優しいお姉さんが一緒に選んでくれた。  これを持ってお父さんの所へ持っていた時の顔を想像すると、いまからワクワクが止まらない。 ピリリリリ―― 「はい、高橋です……はい…………え? すぐ行きます!」  突然お母さんの携帯が鳴った。それに出たお母さんの顔が徐々に青白くなっていくのを譜和は間近で見ていた。それが何か嫌な知らせだということも何となく察してしまった。 「どうしたの?」 「お父さんの容体が急変したって!?」 「え?」 ……お父さん? 死んじゃうの? 嫌だ……嫌だ!
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